いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

就職しないで生きていくこと

週末ラジオ番組を生放送した。「NINJA HOUSE CLUB」茨城県常陸太田で友達の音楽家SINSENくんは、この古民家を拠点にゲストハウスを運営し、ギター教室をやって、本人は音楽家、DJとして活動している。2年ほど前にようやく、このスタイルに辿り着いたと話してくれた。

ちなみにラジオ番組はこちら。
【Focal to Local】ゲリララジオがやってきた!! - YouTube

ぼくという人間は音楽から創られた。ロックをはじめとした1950年代から枝分かれしていった音楽のとくにメッセージに影響を受けて育った。そういう視点から、音楽を紹介した番組をつくった。

番組が終わったあと、聴いてくれた20代の女の子たちと話をした。彼女たちが言った。
「コロナの影響で就職がまったくありません。あったとしても就職して、その先に何があるのか、多くの学生が悩んでいて、むしろ人生や生きることについて考えています」と話してくれた。

そして彼女たちは
「楽しそうに生きている大人に出会えて嬉しいです」と言った。

ぼくが大学生だったとき、ぼくも40代の先輩たちに出会った。その人たちのほとんどは就職していなかった。それでも自由に音楽と関わりながら生きていた。けれどもぼくは1年間だけ企業に新卒で就職した。とても耐えられなくて1年で辞めることにした。辞めることを上司に相談したらこう言われた。
「石渡くん。うちの会社で仮にぼくの年齢まで働いたとしたら、家を持つことができるんだ。ほかの人より良い暮らしができる。ほかの人より良いクルマに乗れるんだぞ。我慢しなさい」
今から20年も前の話だ。

ぼくは、新卒で入った企業を一年で退職して、自由に音楽と関わりながら生きている先輩たちのところでアルバイトをさせてもらった。その先輩たちは、やがて日本の音楽フェスティバルを作っていくことになる。おかげでぼくは、フェスティバルやイベントをプロデュースする仕事に就いた。

今読んでいる民俗学者宮本常一さんの講演集「日本人の知恵再考」の冒頭でこう話している。
「わたしが折りに触れて若い人に言っているのは「就職するな」ということなんです。就職しなくてもなんとか食っていけるものなんです。なぜ若い人にそれを勧めるかというと、学校を卒業してすぐどこかに入社して昇進していきます。そうすると、自分が中心になって物事を考えるという機会は、生涯ないままで終わるんです。みんな枠のなかで考えていくのです」
1976年の講演でこう話している。バブル経済の好景気が来る前の話だ。こう話を締めくくっている。
「大きな機構のなかのひとつの機能として動いておれば、自分の給料は上がっていくのですから社会が完全に官僚化してしまう。官僚というのは役人だけではないのです。会社もそうなっているのです。そういうものが、どこかで息苦しさというものを生み出してくるのです。そういう時代から次の時代に変革するのに、二世代かかるとみています。新たになるまで60年。だからわれわれの時代ではダメなんです。いま育っているひとたちの時代でもダメ。もうひとつ次の世代の人たちによって、ほんとうのものがつかまえられるのではないかという感じがしています」

ぼくは宮本さんが講演で話しているところのいま育っている世代。だからその次の世代、いまの20代の子たちになにかバトンを渡したい。なんとなくそう考えていた頃だった。

話していた女の子のひとりが
「わたし話すのが好きなのでラジオやってみたいです」
と言った。

SINSENくんはすぐに「やろうよ」と返事した。
ぼくは「いつやるか決めようよ」と言った。

来週11月8日21時から、その子がラジオナビゲーターをやることになった。

ぼくがサラリーマンを辞めようとしたとき「我慢しなさい」と言われた。一体、社会が若者に押し付ける我慢とは何なのだろうかと思う。社会の状況は刻々と変わり、人間は動物的な直感を働かせて生きている。それを閉じた社会のなかの感覚で我慢しろと言えてしまうのは、あまりにも不自由過ぎる。やりたいと感じることは、そのひとの人生にとって必要な選択だからそう感じているはずだ。それが失敗だとしても、その失敗が必要でそのあとに、納得のいく結果が待っている。誰かの意見に流されてしまえば、その結果を手にすることはない。

生きるとは自分で考え、自分の手足頭を使って生き延びることだ。

昨日SNSでサラリーマンを辞めた人が
「いますぐできる副業や起業ってありますか?」
と問いかけていた。

仮にそれがあったとしても
それは自分の仕事にならない。ゆっくりじっくりと自分の仕事を育てる方がいい。20代からはじめれば、40代には何か基盤ができる。諦めずに続ければ。自分のやりたいことを、好きなことを周りの人に伝えていけば、みんなきっと応援してくれる。あんまり若い女の子に言い過ぎるのも、あれなのでここに書いておきます。