いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

理由もなく気に入らないという気持ち

自分にとってのアートの最前線は「桃源郷づくり」で、これは景観をつくって、訪れたひとに「ここはいいところだね」と感じてもらうランドスケープアートであり、大地から溢れる草たちを美容師のように刈り込んでいくおよそ芸術っぽくない作業でもある。

限界集落に12世帯。まわりのほとんどは耕作放棄地。所有者はいるけど使っていない。草が生え放題。なので、所有者に許可をもらって草刈りをはじめた。初年度は、もはや雑草というレベルを超えて木になっていたり、それは大変な作業だった。2年目は、まだ草の背丈が小さい6月から草刈りをはじめたおかげで、草たちと仲良く過ごせているような気がする。

この集落に自分の土地はなくて、誰かの土地の草刈りをしている。一応、地域の有志で協議会を立ち上げて、協議会名義で使ってない土地を借りて、代わりに草刈りをしている。ところが、いろんな人がいるから、それを快く思わない人もいる。そういう人は直接何かを言ってくることはなくて、ふんわりと風のように噂となって伝わってくる。

ある場所の草刈りをしていると、遠くからクルマを停めてこっちを見てる土地の所有者Sさんがいた。たまにそうやって見ているのが分かった。たまたまその人が、いつもお世話になっていると人と立ち話をしていて、無視するのも何なので、話しかけてみた。

Sさん「いや草刈りご苦労さんだね。なんであんたがやってんの? あんた芸術家だろ? そんな人が草刈りなんて俺は納得いかないんだよね。あんたはもっと絵を描くとか、そいうことをしなきゃいけなんだろ? 誰がやらせてんのさ?」


「誰がやらせてるっていうか、ぼくが自分で好きでやってるんですよ。草が伸び放題より刈ってあるほうが、見た目がいいじゃないですか」

Sさん「そりゃそうだけどさ。あんた、そんな無償で働くわけか」

「タダってわけでもなくて、ぼくは集落支援員といって、この地域のためにここにいて役に立つことをして、それが給料になっているんですよ」

Sさん「なんだ。じゃあ、お前は役所の人間か。つまり当局の使いってわけだな。俺は気に入らんのだよ。俺は腰が痛くて草刈りが思うようにできなくてよ、そこに付け込んで土地を貸せというわけだ。毎年契約更新で嫌だったら返してくれるって話でよ、気に入らないね。第一偉そうなんだよ」
(何が気に入らないのかまったく理解できない)

「そうなんですね。嫌だったら草刈りしないので言ってください」


Sさん「いや、だからね、芸術家の先生をね、草刈りさせて、うーん、気に入らないんだけど、、あんたが当局の回し者だってことも気に入らない、、けど、草を刈ることがあんたは自分で好きでやっているっていうのか?」

「そうですよ。だっていろんな理由で草刈りができないのだから、それを放っておくよりいいと思いますよ」

Sさん「とにかくだ、俺は気に入らんのだよ。しかし、あんたを悪く言うつもりはないよ」
「じゃあ、また気に入らないことあったらいつもで言ってくださいね」

と言って別れた。分かったのは、その人はただ気に入らないということだった。それだけってこともあるんですね。人間って面白い。