いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

忙しくもないし、暇でもない。するべきことはあるけれど、誰かに急き立てられることはない。つまり自由に生きること。

時間が緩やかに流れるようになった。忙しくもないし、暇でもない。なにかしなければいけないことはあるけれど、誰かに急き立てられることもない。ぼくは自由が欲しかった。たぶん、今はそれを手に入れて、ぼくは自由のなかで生きている。そのことについて書きたいと思う。

10月25日(日)に久しぶりにイベントをやった。コロナで人の行き来が制限されて、北茨城市では感染者がいないことから人との交流が減っている。春にやる予定だった県の企画イベントが延期になってようやく開催された。

イベントは地域を体験するという連続講座のひとつだった。相談されたときにいつもお世話になっている先輩、豊田澄子さんと平良重さんに講師を依頼した。澄子さんが畑で採れたものを中心にした料理を「この土地で採れた恵みの食堂」と題してお昼ご飯として出すことにした。

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ほとんどこの土地で採れたご馳走をメニューにすることができた。まるでお殿様へ献上するご膳のようだった。けれども全然お金が掛かっていない。午後は平さんの苔アート教室。平さんは、苔玉づくりの素材を身の回りか集めてくる。ほとんど買うモノはない。午前中は、この地域を散歩して、今作っている景観について、改修してつくったアトリエ&ギャラリーの見学案内をした。

テーマは一貫していて「ここにあるものを利用すること」だ。
身の回りにあるものを利用する。自分が生きている環境を最大限に利用すること。どうしても都市生活ではこの視点が抜け落ちてしまう。実は自然環境を利用すれば消費しなくても生きてく方法がある。お金がなければ死ぬわけじゃない。けれども消費社会の呪縛はそう簡単に解くことはできない。

ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭、山で修業をしたツァラトゥストラはその悟りを説くために街へ降りていく。ぼくは7年間、生きることについて探求してきた。それだけの期間だけれど、自由に生きていく方法をみつけた。まるでツァラトゥストラのような気分だ。

自由に生きていることに気が付いたエピソードを紹介したい。

「古い柿の木があって、渋柿で、澄子さんは役に立たないから切ってくれという。ぼくはその古い柿の木がまるでシンボルのように感じて伐りたくなかった。だからそのままにしていた。あるとき妻チフミがネットでドライアイスで柿の渋が抜けることを知って、ドライアイスを販売しているところをみつけ、古い柿の木の柿でやってみた。4日間で渋柿は甘柿になった。澄子さんは美味しい柿に喜んで木は切られないことになった。」

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人が必要としないもの、役に立たないものを利用すること。ここに現代社会の抜け道がある。

ぼくは人が暮らせないような空き家を直して暮らしている。家賃はゼロ円になった。耕作放棄地の草刈りをして綺麗にしたら、使ってもいいと言ってもらって、そこを畑にしている。これもゼロ円だ。家も土地も、限界集落で誰もここに暮らしたいと思わないからこそ起きる現象だ。何と呼べばいいのかまだ分からない。渋柿を甘柿にする方法をぼく以外は知らない。だからこの集落のすべての渋柿が食べ放題になった。この法則を家に当てはめると、空き家を直して暮らす方法を誰も知らないからボロボロの家に暮らし放題になった。そのおかげでぼくは2015年~2017年は地方を転々と旅をすることができた。

この時代に自由がないという。そうだろうか。自由は用意されるものでも提供されるものでもない。自由とは脱出だ。脱出とは危険な場所や状態からぬけ出ること。だからみんなが自由がないと諦めているときこそ、脱出するチャンスだ。まさか想像もしないのだから。ではどこへ? ここではない別の場所へ。それはどこにあるのか? どこにもない。だからつくる。自由とは自分でつくるから自由になれる。誰かに与えてもらったのでは、そこに本当の自由はない。つまり自由を手に入れるとは、その環境を自分でつくることだ。

どうやったらこの場所へ誘導できるのか、その道をつくりたい。もちろん、すべての人がそうしたい訳ではないと思う。けれども、この時代の先に豊かな生活があるとイメージできるだろうか。むしろ今の時代は漠然とした不安に覆われている。たとえば、いまの70代、80代の話によれば、漠然と成長して豊かになっていくイメージしかなかったと聞く。それが高度成長期だ。今はどうだろうか。

だから、脱出する方法を伝えていきたい。これは次のテーマ。そのやり方を表現していきたい。

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