いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

失敗にしろ成功にしろ、それが結果か過程かを決めるのは自分で、未来はいつだって未知だ。

朝起きて旅の本の序文を書いて、編集者にメールした。庭に生えてきたミントを摘んて紅茶を沸かす。モロッコで覚えたミントティーが飲めた。

チフミが姉の子供の面倒を見るために出掛けて、ひとり何をしようかと考える。11時にWebデザインを手掛けてくれている宮下くんから電話。引越し未遂の顛末を話し「自由を選べばリスクがあるね」と言われた。何人かに引越し未遂の件は、無謀だったとか、怪しかったと言われる。結果が悪ければそういう話しになるし、うまくいけばみんなが賞賛するものだ。

作品の制作に取り掛かるも、床を養生するビニールがなくて買いに行こうとしたがやめた。なければ工夫すればいい。すぐに買う癖を直したい。ウッドパネルを買ってきた袋で養生できることを発見して、アクリル絵具をパネル流した。そこにドリッピングして、心の中で雨が降り風が吹き何千年の時が経つ。現実には、すぐ乾かないので、他の作業をした。

好きなことを抱えて生きていきたい、そのひとつにボルダリングがある。プライベートウォールをつくって遊びたい。引越す予定だった津島には場所があって、一式を師匠的なジムのオーナーに譲ってもらった。引越しが中止になって、その一部は家の空間を占拠している。

ジムの先生が、ボルダリングに対する気持ちを汲んでくれのか、仕事をくれた。新しいジムの看板づくりとプロモーション。好きなことにお金を支払わずに、お金を貰えるようになれば、生活をよりシンプルにできる。紙にペンでクライミングをしている絵を書いた。身体が覚えているから、ロゴはすぐにできた。


自分の生活圏内に面白いものをみつけるためにひと駅分を歩いてみた。裏路地に入ったり、古い家屋の様子をチェックしたり。半年前には興味のなかった半ば廃墟のような物件が目に入る。倉庫と住宅。このコンビネーションで月5万円が希望家賃。まあ、簡単にみつかる条件ではない。

口の悪いクライミングジムの先生は「やりたいことをやりたいと言わない奴には興味ないし、そんな奴は俺にとっては存在してないに等しい。」と言った。

言わなきゃ、何も伝わらない。愛知県津島市の空き家プロジェクトのことが忘れられない。特にこれから一緒に活動する予定だった仲間たちのことを。このプロジェクトがなければ出会わなかった、たくさんの人たち。特に米澤隆建築士とのコラボレーションは、これからだった。

ザンビアに滞在したとき言われた言葉がある。「ネバーギブアップだ。みんな兎を追うが途中で諦めてしまう。諦めなければ諦めた奴の兎も手に入るのに。しかも、自分のためではなく、その姿勢を仲間にみせるのがネバーギブアップなんだ。」

であるなら、今回プロジェクトが中断するのは、空き家がなくなったからで、空き家プロジェクトを実施する要素は場所以外は揃っている。逆に場所さえ手に入れてしまえば、このプロジェクトは実行できる。いまほどの挫折で、中断していては、何事も成就できない。諦めなければどんな失敗も存在しない。それは実験であり、次のステップへの踏み台だ。


夫婦で作品をつくる
コラージュ・アーティスト
檻之汰鷲(おりのたわし)
http://orinotawashi.com/

生きる芸術のための生活者
石渡のりお
norioishiwata@gmail.com