いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

騙す人 騙される人 つくる人

「オニヤンマは虫除けになるんですよ。オニヤンマのカタチをした模型が売ってて、注文したんだけど、明日にならないと届かなくて。だから写真をプリントして持ってきたんですよ。これでも効くんですよ。ってことは虫は色で認識するんですかね。今日は午前中で帰ります。この写真使ってください」

IT関係の仕事をフリーでしているエイジくんが森から現れて言った。まるで森のもののけ。立ち話をしていると森からドスンと木が倒れる音がした。  

オニヤンマの写真をお守りにして小さな祠の板張り作業をした。確かに虻が寄ってくる確率は減ったかも。お昼に宿泊場所に戻り妻が作ったパスタを食べ終わると電話が鳴った。驚くことにアメリカからの着信。出ると女性の声。片言の日本語。

「イシワタノリオさんで間違いないですか」

「はい」

「これから青森県警に出頭できますか」

「はい?」

青森県警に出頭してください。イシワタさんは、ある事件に関係しています」

「なんの事件ですか」

「まず確認ですが青森県警に出頭できますか。できなければこの電話で事件の説明をします。まず周りに人はいますか。ほかの人に聞かれないようにしてください。守秘義務があります」

「妻がいるので、クルマに移動します」

「お願いします」

「クルマに移動しました。どういうことですか」

「タチカワアツシをご存知ですか」

知ってるようなどこにでもいそうな名前だ。

「分からないです」

「ではですね、青森県警で詐欺グループの捜査本部が立ち上がりまして、その事件のなかでイシワタノリオさん名義のpaypayカードが使われています。つまり現在ですね、容疑者グループのひとりとしてリストアップされています。このカードがイシワタノリオさんご本人のものか確認します。これから住所を読み上げます」

 

何の事件に巻き込まれたのか、とにかく何が起きたのか、がしかし、そもそも電話の相手は誰なのか。

「ちょっと待ってください。あなたは誰なんですか」

「わたしは東京の警視庁捜査2課の中村サトミです」

「なんでアメリカからの着信なんですか」

「発信先が特定されないようにランダムに表示されます」

「あなたが本物の警視庁捜査2課だとどうやって確認できるんですか」

「それは信じてもらうしかないです。あなたは容疑者になっていますから」

「だったら青森県警に電話して確認するというのはどうでしょうか。で青森県警から捜査2課の中村さんに報告してもらいます」

「わかりました。すぐに分かるでしょう。捜査2課のナカムラサトミです」

電話を切って、すぐ青森県警に電話した。

 

受付の女性に状況を説明すると、すでに分かっている様子だった。すぐに担当に繋ぐと言った。

男性の声「代わりました。ご説明ください」経緯を説明すると、ここ数ヶ月多発している詐欺です、と教えてくれた。本人確認をしながら個人情報を確実なものにして、逃れられない状況にして、動画でニセの警察が登場したり、示談金で事件との関与を解消すると数十万円を振り込ませたりする。

ぼくの場合は、電話の相手を疑ったからよかったそうだ。電話を切ったあと、少しだけ、青森県警も本物なのか分からなくなった。自分で電話したのに。

 

札幌で改修作業をするにも、木材が必要で、本州とは違ってすぐに手に入るわけでもなく、しかも価格も高騰していて、こっちにきて5日目。まだ目処が立っていなかった。

昨日は、道南杉という北海道産の木材をみつけて見積もりを依頼した。数日前に千葉の材木屋さんで激安の材木をみつけて送料を調べてもらっていた。3日前に札幌のホームセンターを巡って探して見つけた材木は数が足りなくて、予約注文したら、3ヶ月待ちと言われ、それはそのままオーダーしておいた。

今回滞在は15日間ほどだから、そろそろ木材を手に入れないと、また次回という展開になってしまう。それもオーナーに迷惑を掛ける。千葉の業者に電話して、納期はいつになるのか送料はいくらか確認すると、まだ運送業者から回答がない、と言われた。道南杉の見積もりも届いたが98万円だった。想定の倍以上する。午後にホームセンターから、予定より早く材木が入荷しましたと電話があったから驚いた。それだったらホームセンターが一番早く手に入るし安い。千葉の業者に急ぎで材木が必要なので申し訳ないけどキャンセルします、とメールすると、すぐに早急に発送対応します、と返信があった。だけど、送料も納期も分からないし断りのメールを返した。だったら最初からそう対応してくれればよかったのに。

3時ごろまた神社に戻って祠の板張りを続けた。虻がたくさん寄ってくるので、オニヤンマの写真を背中に貼って作業した。妻がトラロープも効果あると言っていたのを思い出した。

細かい仕上げのところは、鑿で木を削って調整して収まりをよくした。湧き水の神社だから、空気が冷んやりする。ここは龍神のパワースポットと呼ばれている。

モノを作っているとき、ぼくの世界は社会からは一時的に隔離された自律ゾーンに入る。バリヤーみたいに。集中することで、まるで混乱している社会とはレイヤーが異なる平和な空間をつくりだす。この現象を何て呼ぼうか。モノを作りながら、そのモノ自体ではなく、そのアウトラインの側、つまり空間をつくる技術もありえるだろう。きっと。

f:id:norioishiwata:20240801082138j:image