いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

この土地に生きるものたち

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「ご苦労だね。いやいや、綺麗になった。俺のところに鶏小屋があって、もう使わないから、解体すればトタンや木材あげるから」

ぼくら夫婦が改修している廃墟の様子を見に来る猟師のお爺さんが言った。

 

ぼくらはお爺さんを地域のみんながシゲ坊と呼んでいるから、失礼のないように親しみを込めて「シゲ坊さん」と呼んでいる。

シゲ坊さんは、いいことを思いついた。鶏小屋を壊してもらって、おまけにその廃材も処分できるから一石二鳥以上の取り引きだ。一方で、ぼくら夫婦は、タダ働きで、便利屋のような肉体労働をすることになる。お金が目当てなら絶対にしない取り引きだ。

ぼくら夫婦は「そこにあるものを最大限に利用すること」をテーマにしている。シゲ坊さんとの出会いによって起きたこのハプニングも作品の素材だから、この都合のよい提案に乗ることにした。

シゲ坊さんは、いつ来るんだ、と毎日様子を見に来た。いよいよ廃墟の改修に使う木材が不足してきたので

「明日、鶏小屋解体に行きます」と話した。電話番号もお互い知らないから、翌日、教えてもらった場所に行った。

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シゲ坊さんは不在だったけど「勝手に始めてていいぞ」と言われていたので、妻チフミと、どうやって解体するか相談した。実のところ、建物を解体したことはない。まずは、小屋の中の荷物を外に出して、壊せるところから手をつけることにした。

1時間くらいで、シゲ坊さんは現れ、シゲ坊さんは助っ人を連れてきてくれた。今年の冬、手術に失敗して片足がマヒしている無口なカセさんだ。カセさんは何も言わずにいつもそっと協力してくれる。これまでも、草刈りをしてくれたり、廃棄されるアルミサッシを届けてくれたりした。

カセさんは、チフミに解体のやり方を教えて、シゲ坊さんは、ぼくに屋根を先に壊してしまえ、と段取りしてくれた。

お昼過ぎには、廃墟の持ち主で、地域の人気者スミちゃんが現れた。もう80歳になる底抜けに明るいお婆さんだ。

「オメエら今日も頑張ってんなー。今晩はBBQにすっぞ」と言った。どうやらシゲ坊さんが、北海道で仕留めた鹿肉を提供してくれるらしい。

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ぼくは、ひたすらトタン屋根を剥がして、小屋の下では、みんなが片付けをして16時には、トタン屋根を全部剥がし終えた。

スミちゃんとチフミは、BBQの準備をしていて、すぐに鹿肉が焼かれた。スミちゃんが「ここの地域には何でもあるぞー。こんな高級な鹿肉も、美味い酒だって」と言うと、シゲ坊さんは、家から一升瓶を持ってきて「ほら飲め」と黄色いビールみたいな色した日本酒を注いでくれた。

「何ですかこれ?」

「濁り酒を5年寝かせたんだ。酒は飲まなきゃどんどん美味くなるぞ。だけど、みんな飲んじまうからな」

飲んでみると、蜂蜜みたいに甘かった。

スミちゃんは、その日本酒を飲んで

「これは美味いなあ!ほんとに何でもあるな!」

と笑った。

シゲ坊さんが

「そうだな、ないのはカネばっかりだ」

そう言うと、みんなが大笑いした。

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