いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

本を個人で出版すること。

やりたかった夢のひとつに本を出版することがあった。理由は本が好きだからで、とてもシンプルなことだ。しかし、本を出版するということは、なかなか難しくハードルが高い。本をつくるだけなら、まだ比較的難易度は低い。何か書いてある紙を束ねれば、それは本になる。この種目を難しくしているは「出版」だ。

出版するとは、出版社から本を出すことで、編集者がいて、出版社がお金を出し本を印刷して売ってくれる。だから出版社は売れる本を探している。まず売れる見込みがないものは出版社から出してもらえない。だから売れる本をつくろうという話になる。

ぼく自身、何度か出版社に営業してみたり、編集者に打診したりしたこともある。もちろん編集者も出版社も売れるものを掘り出す使命がある。値打ちのない壺みたいな本を掴まされたくない。だからとても慎重だし、よし!君の本を売ってみよう!とはならなかった。当然と言えば当然だ。近頃はSNSやインターネットを通じて、作家どれだけ認知されているのかを測ることができる。そんなに数字を持っていないぼくを商品にするのはリスクが高い。もちろん、作品が奇跡的に素晴らしければ、出版してもらうメダルを与えてもらえるかもしれない。しかしそれがノーだとして、それでゲームオーバーなのか。

ずっとこの出版することの難しさに悩まされてきた。幸いにも「生きるための芸術」と題したぼくの本は、理解ある出版社に巡り合い、世の中にリリースされた。夢とは儚いもので叶った途端に現実となって輝きを失う。叶った途端にその光を見ることはもうできなくなる。だから栄光なのかもしれない。出版されれば、次は何冊売れたかというレースが始まる。売れなければ市場から撤退する運命になる。本屋さんの棚のスペースには限りがある。新しい本は毎日出版されている。そのひとつひとつが命がけで棚を狙っている。

ぼくは去年から今年にかけて3冊目の本を書いた。それを察したのか、これまで出版してくれた会社が新作を出版する体力がない申し訳ない、と連絡をくれた。本を流通させるには、流通会社を経由する必要があり、2000冊は刷らないとレースへの参加資格を手に入れることができない。それでいて売れなければ2000冊は返品され、機会を失った本の山となる。そもそも自分で、そんな数の本を売ることができないから出版社のチカラを借りて、流通会社を経由して読者のもとへと届けようとするのだから、返品されてしまえば、もう売り捌く手段も気力はどこにもない。ずっとこの出版に関するねじくれた状況について自分のスタンスを模索していた。頭の中で。オブザーベーションだ。自分が本を出版するという意味を捉え直す作業をした。

本が好きで、読むだけでなく、本そのものを作りたい。これがそもそも初期衝動だ。そのために文章を書き、絵を描くようになった。だからレイアウトもデザインもすべて自分でやるようにもなった。作ったら、それを誰かに読んでほしい、楽しんでもらいたい。それが原点だ。その対価として本が売れてお金になれば、それは嬉しい。好きなことがお金になって生きていくことができる。
つまり自分が作った本を読み手に届けることさえできれば、極論、出版社も流通会社もいらない。「たくさん売れる本でなければならない」という呪縛から解放されれば、本を出版するということは、信じられないほどシンプルになる。

というわけで出版レーベルを作った。名前は「地風海」妻の名前チフミとサーフィンをイメージした。社会や会社は好きではないので「社」は付けなかった。出版者になるのは今は簡単で、ISBNという出版コードを申請するだけ。一冊から可能で、ぼくは3年間で10冊出せるコースにした。Janコードという流通させるのに必要なナンバーと合わせて30000円だった。ただ全部自分でやっていると、誰にも認められないからだな、と思われたくないので、これまで出版してくれた会社にも協力してもらっている。あとコピーライターの友人に表紙まわりのテキストを作ってもらった。印刷は、ネットで調べて、比較的安いところにお願いした。サンプルを5部だけ刷ってもらい手元に届いた。やっぱり本は楽しい。ページをめくって展開していく世界。文字しかないのに広がるイメージ。行間、フォント、余白。バランス。

サンプルを色見本にして、調整して、テキストの最終校正をして今日入稿した。本がモノとして仕上がる。ここからは本を売っていく作業が始まる。これを読んでくれた方。ぜひ買って読んでください。販売できるようになったらまたここでお知らせします。

f:id:norioishiwata:20210824092400j:image

f:id:norioishiwata:20210824092318j:image
「廃墟と荒地の楽園-生きるための芸術3」
9月の上旬に発売予定です。Amazonでも買えるように登録中です。