いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

空き家再生【ルミエール実験住宅】参加者募集中。

ついに第1章が終わった。
2013年、ヨーロッパとアフリカを旅して、さまざまなライフスタイルと遭遇し、ザンビアで泥の家を建てたのをきっかけに、自分が勝手に編集した世界のライフスタイルを日本で実践しようとスタートした冒険=生きるための芸術。

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まずは空き家に暮らして、家の呪縛から解放されようと考えた。家の悩みがなければ、ずっと生きやすい。
空き家を探して2014年の夏に出会ったのが、愛知県津島市の築80年の長屋。始めは仲間たちと空村プロジェクトとしてスタート。NPOや建築家など強力な布陣だった。準備期間を経て2015年いよいよ移住する直前に中止になった。

そこから空き家との格闘が始まった。

空村が中止になった理由は、いろいろ考えられるが、ひとつには建築のシステムにある。建築家がいて、その設計のもとに工務店から水道、電気屋、屋根、壁と多くの人間が関わる。当然、予算は膨らんでしまう。

それから地震国の日本は安全を保障することが要求される。だから耐震基準が設けられ、それを満たす必要がある。その基準は昭和25年に決められた。つまりそれ以前の家は、そもそも規格外。
だから古い家を使えるように直そうと建築関係者に相談すれば、それなりになってしまう。それもそのはずで、学校では古い家の直し方なんて教えていないし、手頃な商品やサービスがない。

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長屋の家主こと水谷さんは、このことを最初から分かっていた。そのうえで、空村プロジェクトへ期待を託していた。ところがぼくらが採った方針は、真逆だった。既存の建築方法に従い長屋の改修計画を進めた。水谷さんの話に耳を貸さずに。

プロジェクトが中止になったことは大きなダメージだった。それでもぼくは諦められなかった。人間の生活の中心にある「家」が人間の生活を圧迫することが理解できなかった。もっとよい方法があるはずだ。

水谷さんはぼくら夫婦を心配してくれていたので「やっぱり長屋に暮らし改修をしたい」と伝えてみた。こうして家主と入居者による長屋再生計画が始まった。2015年の夏。

水谷さんの目的は、はっきりしていた。家の構造を持ち主や入居者が自分で補強すること。ないのならつくればいい。その技術を開発することだった。話を聞いたときは、半信半疑だった。
ところが水谷さんは、素人ではなかった。京都大学で土木を専攻して、大学院では橋梁の研究をして、アメリカに渡りコンクリートの分野で博士号を取得していた。

そうして開発されたのが

DIYイノベーションにより開発した「トレスパシオ(特許出願中)」という軸組み木造建築の後付け補強技術について - いきるための芸術の記録

だ。長屋の一室は、この方法で補強されている。

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開発はさらに進み、壁や屋根にも及んだ。この長屋はさながら研究所となった。そこで名前を「ルミエール実験住宅」とした。水谷さんを水谷博士と呼ぶようになった。

実験とは、やってみなければ分からない事象に取り組むこと。失敗だったとしても「そのやり方は違う」という答えを手に入れたなら成功だ。それを繰り返せば、答えに近づいていく。

ルミエール実験住宅は、いつも参加者を募っている。
家を自分で直すことができれば、家に困ることはなくなる。家は生きるための道具になる。道具は使うほどに技術として身につき、武器となる。

現在、水谷博士と沖縄を拠点とする「しゃがみ弱美術館」を主催する高畑愛子がアーティストインレジデンスを計画している。9月からスタートする予定。

築80年の長屋は再生した。この家の物語はこれからも続く。

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檻之汰鷲(おりのたわし)
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