いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

どこへ向かうのか。行き先を見るだけでそれは進む。

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札幌での滞在制作を、これは続くのだけど一旦終えて、北茨城に戻りクルマを乗り換えて、妻の実家、長野県岡谷市に移動した。6時間ほどクルマを走らせ到着すると、一緒に旅していた犬が血尿した。驚きとショックで慌てたが、2日後には回復してきたのでひと安心した。犬も疲れたのだろう。申し訳ない。

妻の実家に向かう途中、googleのナビがいつもと違う経路を出してきたので、それに従って小諸に向かった。大きな川をみつけて、岩がいくつもある絶景なので降りられそうなところにクルマを停めた。そこは神社の駐車場だった。では参拝しようと歩き始めると、岩山が参道で険しい道を登ることになった。10分ほど進むと景色が開けて、崖に神社が建っていた。そこには室町時代の木造の社があった。1200年頃か。

札幌での制作で迷っていたのが建築材の耐久性だった。雪が降り積もる環境に木材が耐えられるのか。いろいろ調べると、数百年単位で残るのはやはり木材で、日本の神社建築は世界でも稀なものだと知ったばかりだった。

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この遭遇のおかげで札幌で制作しているものが何か、それは聖地だと理解した。もともとその要素は揃っていて、それを見えるようにすること、それが札幌での仕事だと理解した。見えるようにする、とはアートの語源のひとつギリシャ語のテクネーで、テクネーには見えるようにする、という意味がある、とハイデガーの本に書いてあったのを思い出した。原点としてのアートだ。

妻の家に一泊して自分は東京に向かった。バンドのリハーサルがあって、歌詞を書いたり準備をするためだ。あと、これは誤解されたら困るけれど、妻の実家が居心地が良過ぎてダメになってしまう。美味しいご飯やお酒、テレビがあって、たぶん、これが快適な生活なのだろうけれど、これに慣れてしまったら自分は腑抜けになると感じる。ぼくは生活を作っている。つくるとは、今あるものとは違うものなんだと思う。

バンドは25年やっていて、売れる気配はないけれど、曲を作って、バンドでリハーサルして、ライブをやり、リリースする、という流れが整ってきた感じがする。音楽の種類はいろいろあるけれど、パンクとヒップホップ、ぼくはこの二つを混ぜたものをやりたい。どちらも技術的なものではなく、ストリートから発生した文化だから。そのはじまりは、シンプルだった。ヒップホップは団地の移民の子供が親のレコードプレーヤーとレコードで電柱の電気を盗んで広場でパーティーをやったことに由来する。ジャマイカから移民のクールハークが起源とされている。流してるレコードの音にマイクで喋りを乗せて煽る、これもジャマイカから来た文化で、それを若者たちがブロンクスでやったことが世界中に広がっていった。

音楽の魅力は、底辺から生まれたところだ。個人的には。パンクもヒップホップと同じころアメリカで発生した。CBGBというクラブは若者にチャンスを与えた。知名度もない新人たちがステージで演奏した。それがテレビジョンやラモーンズ、パティスミスたちだった。

一曲、ほんの数分。たったそれだけの時間で人の心を動かすほどの衝撃を与える。もちろん絵画やオブジェは一瞬見ただけで、同じことをやってのける。その魅力に取り憑かれて、たぶん僕は、その魅力、心を動かしたいのだと思う。心の運動。だから、いまもまだやっている。なにより仲間たちと協働すること。この難しさに取り組むことがぼくの経験値になっている。仕事でもない、遊びなのか、趣味なのか、もう分からない。でも真剣にやっている。いや、やってない。どうなんだろう、分からない。という境界線を彷徨いながら心を通わせ活動している。

東京で詩を書こうと準備していたら、熱い。とにかく熱い。暑さではなく熱さ。クーラーがないと生きていけない。詩を書くのに紙を探したら、むかし書いた小説の断片が発掘された。本がつくりたくて、ノートにページを貼り付けた本が破れて半分だけ出てきた。

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20年前は、とにかく小説を書いていた。その世界を作っていた。前半が破れたおかげで、物語が唐突にはじまって、少し手直しすれば出せそうな気もする。でも過去に取り組むよりは前に進んだ方がいい。またこれは10年後に。

札幌に滞在しているとき小学生に大人になったらどうなりたい?と質問された。もう大人ななんだけど、それはそれとして考えた。もっと世界を知りたい。いろんな国に行きたい。だからこう答えた。いろんな国に行ってたくさん友達をつくりたい。

ちょうど札幌から帰るときインスタグラムにアイルランドのギャラリーから個展は2025Septemberでどう?とメッセージが来た。次の目標はアイルランドでの個展だ。目的は海外で展示をするフローやパッケージをつくること。作品を輸送するコストや、それならどういう作品がいいのか、どう展示を組めるのか、滞在制作も取り入れるのか。作品を販売したときの税金、ギャラリーへの%支払い、渡航費も含めて、プラスマイナスをゼロにできるか。

10年前に旅したときは、まだ持っていくほどのものは何もなかった。海外を巡って、逆に日本が持っている文化を学んだ。この10年、都市から地方へと拠点を移して、そこにある暮らしや文化から日本を吸収してきた。そのオリジナリティで世界と渡り合うことができるか。60歳までの目標が定まった。

ここに書いているのはぼくが自分と対話するドキュメントです。自分のしていることを拾い集めて文字にして観察するのです。それは地図になります。気持ちや出来事による自分の現在地。そこからどこへ向かっていくのか、その方向を見るだけでいいんです。それだけで物事は進みます。サーフィンでも波に乗るとき進行方向に顔を向けます。するとその方向に進むのです。しかし下を見てると波に飲まれます。これは何か真実なのかもしれない。

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