いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

空き家に暮らして、その経験から何が必要で何が足りないのかを明らかにしてみる試み。

 

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いよいよ新しい旅が始まった。いくら準備をしても、その一歩を踏み出さなければ旅は始まらない。逆に言えば、踏み出しさえすれば、準備なんか必要ない。
土曜日の夜から、愛知県津島市の半年付き合い続けてきた築80年の長屋に滞在している。少しづつ掃除をしてきたのでかなり綺麗だけど、部屋には何もない。空き家に住むのは、とにかく不便だ。しかし、足りないからこそ、なにが必要なのかを知ることができる。満たされた生活は、欲望が膨張するばかりで、幸せはどんどん遠くへ逃げていくように思う。足りない暮らしを体験すれば、ほんのわずかな事が幸せに感じる。

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家主さんが、電気を通してくれたので、灯りとインターネットは確保できた。しかし、冷蔵庫もクーラーもないので、とにかく暑い。じゃあ、40年前はどうやって生きていたんだ、と疑問に思う。暑くて眠れないと嫁は夜中にコンビニに避難した。

部屋をよくみたら古いクーラーがあって、壊れていると思い無視していたが、僅かな可能性に賭けてスイッチを押したら動いた。人間は、いよいよクーラーと冷蔵庫がなければ生きていけないレベルに突入しているらしい。


「動けば動く」とは友達の名言で、空き家暮らしを始めると、いろんなことが動き始めた。
facebookを通じて、吉祥寺というお寺の留守を預かる羽場さんという方に会いに行った。吉祥寺は、いま滞在している空き家から徒歩10分ほど。家と家の間にある小さな路地を入っていく奥に小さなお寺があった。その小さなお寺は築200年。それを残すための物語を、留守を預かる羽場さんが話してくれた。

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いまから35年前、知多半島に暮らしていた羽場さんが近所のお寺から、津島のお寺の管理人を探していると相談を受けて移住した。檀家もゼロのお寺をただ守るために暮らしていたが、いよいよ古くなり、改修の相談をあちこちの工務店にするも、壊して改修するしかないと言われ途方に暮れていると、テレビでビフォアーアフターの匠に出会う。連絡先を調べて相談するとすぐに来てくれた。工務店や大工に改修できないと断られ困っていると伝えると、こんな素晴らしい建物を壊して新しく建てるなんて、ほんとうに日本の建築はやり方が汚い、と怒ったアメリカ人の匠ジェフリームーサスさんは、その建物を見事に改修して甦らせた。

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この建物を見学するために呼ばれたような出会いだった。家を改修・リフォームすれば、お金は掛かるが、結果がよければ、値段で計ることができないほどの価値が生れることを学んだ。そういう完成度と満足があることを知った。

なければつくる、足りないものを想像し創造するクリエイティブ
吉祥寺を訪ねた後は、津島市役所に助成金事業の申請書の訂正を提出にいった。8月末のプレゼンのアドバイスをいくつか授かり、その後、水浴びができるようにと材料を探しにスーパーに寄った。風呂がなく暑さに苦しむ生活を乗り切るために、外に蚊帳を設置して水浴びをする計画だ。蚊帳とホースを探したが、蚊帳は手に入れることができなかった。結局、畑の虫除けの網を買って図書館へ移動した。

図書館では、茶の湯に関する本を読んで、空き家を活用して質素な暮らしを体現したいと空想した。
武道にしろ茶道にしろ、その根底には禅の思想が流れている。それが、それぞれを人生哲学に通じる技に仕上げている。そう思って、津島の海善寺に坐禅に行こうと決めた。以前に坐禅をやらせてもらい、とても勉強になった。

空き家に戻り水浴びの準備をして、手製のシャワー室をつくっていると、津島市で活用を企むもうひとつの家の家主さんから電話で、ご飯でも行きませんか、と誘ってくれた。

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ビジネス未満の状態から模索を続け新しいビジネスを構築する
町屋の家主さんの日栄さんは、同じ世代で音楽家で、とても共感できる友達のような存在になっている。

夕食を共にしながら、家の活用について語った。じゃあ、明日、家を掃除してどこまでやれるかやってみよう、ということで次の予定も決まった。掃除をして、そのままの状態で「お金のないインレジデンス」をやってみる計画だ。つまり、空いている家に滞在してもらう代わりに改修や掃除などの担い手をみつける。

空き家は、その場所や環境によって活用方法は異なるが、津島市の場合は、この場所で面白そうなことが始まっていることを伝えることが重要だ。

ひとつひとつの物件は、単なる空き家だが、面白そうなムーブメントに参加する拠点としてなら空き家を活用する可能性がみえてきた。ひとつの点ではなく、いくつもの点が連なる物語を描くことが今回の計画の肝になる。

吉祥寺の羽場さんは、ビジネスでもなく手弁当で空き家活用のために動いていると話したら、お昼をご馳走してくれた。日栄さんは、ビジネスにした方がいいと、相談役になってくれると言った。もちろん、いま滞在している長屋の家主さんは、いろんなサポートを既にしてくれている。

ビジネスとは、なんでも経済を生み出せばいい、ということではなく、その仕組みをデザインすることで、よりベストな経済効果を生み出すことだ。だから、誰がビジネスパートナーで、誰が消費者で生産者なのかを充分に吟味して、より明確かつ盤石なプランを描く必要がある。充分な準備と計画が、そのプランの寿命を決める。人生と同じように細く長い方がいいに決まっているし、オリジナル性が高いほど他の人が真似できない仕組みをつくることができる。

こうしている間にも知り合いがFacebookで空き家の活用に困るひとを紹介してれた。なかなか面白い展開になってきている。踏み出さなければ、物語は始まらない。

夫婦で作品をつくる
コラージュ・アーティスト
檻之汰鷲(おりのたわし)
http://orinotawashi.com/