いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

音楽がぼくのアートの根っこにある

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フジロックフェスティバルに参加して20年近くが経つ。10代に音楽が好きになって、20代にパッケージされている表紙の絵や写真が好きになって。ぼくのアートは音楽がルーツだ。20代のはじめに、野外のコンサートに行って、山のなかに、大自然のなかに聳え立つ、黒い箱=スピーカー、そのサウンドを体験して、太古とテクノロジーが融合するアートを感じた。そのとき、はじめて、木が美しいと感じた。

それから縁あって、20代はフェスでスタッフをやるようになって、駐車場や設営、ステージを組んだり、舞台監督のアシスタントや、イベントの撤収スタッフや、ドームテントの設営をしたりした。野外でコンサートをやることは、自然を会場にして、つまり、風や雨、天候のすべてに対応しなければならない。それに備えておく必要があることを学んだ。

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フジロックのサイトのひとつDay Dreamingで去年から"Inai Inai Bar" というバーをやることになった。バーとは「お酒を仕入れ売る」とても単純な商売。けれど、野外でやるとなると、どうやって冷やすのか、どれくらい売れるのか、天候との相談が重要で、思い通りにならない自然を読まなければ、利益はほど遠い。

今年は2年目ということもあって、お店になる小屋を作って、お酒もバランスよく仕入れて、イベントチームも一致協力で、お客さんが寛ぐスペースを作ったりして、金曜日、土曜日と快調だった。台風が接近しているから、小屋を補強したり、タープや屋根の風対策をした。

 ところが土曜日の夜、いよいよ風と雨が激しくなって、夜中に10年使ったテントで寝ていたら、ポールが折れて浸水して、寝床が無くなって、屋根のあるところに避難して、結局、日曜日はバーがあるDay Dreamingは中止になってしまった。

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まさに「風に吹かれて」だった。けれども日曜日は、フジロックで何年振りかの自由の身になって、途中出会ったケニーさんと、グリーンステージでAnderson paak, Jack  Johnson, Bob Dylanを観た。偶然会ったケニーさんは、車の輸出を仕事にしている。ぼくのいま最大の野望が、ザンビアの友達に日本車を届けるプロジェクトだ、と話しをすると協力してくれることになった。必要なときに出会いは巡ってくる。

月曜日の朝に撤収のためにDay Dreamingの会場に行ってみると、そこは台風一過、話しによると風速30mだったとか。人は立ってられず、家屋の屋根は飛ぶほどのレベル。とても開催できる状況じゃなかった。風という怪物が暴れた跡は圧巻だった。破壊。怪我人も事故もなかったのは、さすがのフジロックの判断。

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そして慣れた制作チームの対策は、自然の猛威をかわすように、被害を最小限に食い止めていた。掘建て小屋のようなBarも、状況を見ながら補強したおかげで、風に耐えて建っていた。耐震でなく、免震で、チカラを逃す構造にしたおかげで耐えてくれた。

もう20年近く野外のイベントに関わっているけど、やっぱり自然のなかに人間が生きていることを教えられる。今回も「風に吹かれて」自然に翻弄されたフジロックだった。ほんとうはフェスだけじゃなくて、日常も自然のなかに生きているってことを忘れてはいけない。
Barをやってみて「仕入れて売る」という単純な商売を今更、体験しているけれど、そう簡単に儲けさせてくれない。何千年も人間が商売してきて、貧する者、富む者がいるのだから奥は深い。
フェスティバルという空間に適応する能力、技術は、いきるための芸術のルーツになっている。