いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

One of thesedays 81

月曜日から2日間アルバイトをして、サッカー観戦をして朝まで友達の家で寝てしまったので、生活のリズムが狂っている。

朝、アトリエにしている富士ケ丘小学校で、北茨城市の地域おこし協力隊、都築さんとの打ち合わせ。市からの依頼で、新しくできた公園でやるイベントの企画を練った。チフミと車で移動しながらいつも打ち合わせしているので、イデアはいくつかあった。

公園なので、ベンチやイス、テーブルがあったらいい。チェンソーでキノコの椅子をつくるタイラさんと、森で木を切る林業家の古川さんのチカラを借りれば、自然採取で材料を仕入れて制作することができる。そうすれば、森とタイラさんと古川さんにおカネを回すことができる。

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林業では川上/川下という言い方がある。世の中は、川下が儲かる仕組みになりがちで、川上がいなければ成立しないマーケットなのに、割が悪くなるのは川上ばっかりだ。漁業だって漁師がいなければ売る魚もないけれど、漁師は厳しい状況のなか魚を獲っている。儲けるのは中間業者ばかり。その意味では、消費者がマーケットをつくっている。消費者は最強の権力者。なので、その流れを逆流させて川上と日常を接続するような取り組みにしたい。



午後はアトリエで、リズムを取り戻すためにこのブログの記事を投稿した。

夕方、依頼されている北茨城の海の絵を描き進めた。途中で筆が止まっていた作品だったけれど、新しいタッチの海の絵を描くことができた。日々の生活は、絵を描くことが何よりも最優先だけれど、そればかりをやっていても、絵は良くならない。海に行ったり、友達に会ったり、旅をしたり、目線を変えれば、今まで見ていた景色の見方も変わる。日常は同じことの繰り返しではない。自然に接近するほど、違う表情を見せてくれる。自分自身を新鮮にすることが、苦しんで悩んで描くことよりも、絵を美しくするのかもしれない。

ぼくは夫婦で作品をつくる夫婦芸術家だから、妻のチフミと毎日作品をつくる。昨日よりも今日、今日よりも明日と、1日を刻んでいく日々が制作の基本になっている。できることはとても小さくて、けれども、それを日々積み重ねていくから、想像以上の結果を手にすることができる。

One of thesedays 80

朝起きたら友達のガレージだった。昨日、ワールドカップを観ながら飲んで、ここで寝てしまった。明け方に起きて常陸太田市から北茨城市まで帰って、朝から老人介護施設で旗づくりをやった。旗づくりは、誰でも参加できるので、こうした施設からのオファーが増えてきている。旗づくりはチフミが中心にやっている。毎回テーマを決めて消しゴム判子をつくって、旗になる布を集めたり、切ったりの準備をしている。

施設に入ると「105歳誕生日おめでとう」の飾りが目に入った。105歳。今から105年後はどんな世界になっているだろうか。
職員の方は
「女性の方が圧倒的に長生きしますね。あと、女性が入所したら男性は甲斐甲斐しく面倒を見にきますが、男性が入所した場合は、女性はほとんど来ません。それから平均寿命が女性の方が8年ほど長いので、女性は8歳下と結婚するとちょうどいいんです」
と高齢者あるあるを話してくれた。

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旗づくりのやり方を説明すると、職員さんたちは「できるかしら」という顔をした。車椅子のご老人がひとりふたりと現れて、総勢12名が参加した。

チフミのつくったスタンプを押していく。次第にマジックで絵を描いたり、詩を書いたり自由な表現になっていく。1枚2枚と数を重ねていくうちに個性が出てくる。むかしやっていたことが旗の表情をつくる。うまくやろうとか邪心がない。純粋過ぎて批評の余地もない。つくってくれた旗をひとつずつ飾っていけば、ギャラリーが現れる。

絵が上手いとか下手とか関係なく、そこに現れてくる自由なカタチに魅力が溢れている。到底及ばない生きているアートがここにある。1時間30分ほどで100枚の旗をつくってくれた。職員の方々も驚いていた。表現は、誰にもできることだけれど、それを常識や目的が制限してしまう。考えるほどできなくなる。無邪気な絵は心を洗ってくれる。

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この旗づくりは、去年、北茨城市に来てすぐに、地域おこし協力隊の都築響子さんと一緒に始めた取り組。やりながら、工夫していくうちに、興味を持ってくれる人が増えて、いまでは出張して旗づくりをしている。目標は10kmで、未だ200mほど。数パーセントしか成果を出していないけれど、それをみんな面白がって協力してくれる。目標はバカでかい方が理解される。

お昼は、北茨城市役所の食堂で海鮮丼を食べた。7月2日で閉店してしまうので残念。ここの食堂は安くて美味い。大津港駅前の太信という和食屋さんが運営しているから、リーズナブルに地産の魚が食べたい北茨城旅行者にはおススメのお店。

午後。美容室のタイル貼りのバイトのためにホームセンターから借りた道具を返却していなかったことに気づいて、常陸太田市へ向かう。片道1時間。大雨のなか移動して返却してホッとすると、ヤフーモバイルのお店をみつけた。ちょうど、使っている携帯がPHSで2020年にサービスが終了するから、変更する必要があったので、機種変更してもらった。携帯の契約は、いつも不信感でいっぱいになる。安くなるはずが、なんだかんだ値段がプラスされて料金はあまり変わらない。もしくは高くなる。これはサービスより詐欺に近いと思う。

 

帰り道、高萩の漫画喫茶に寄り道して、漫画を読んで頭をからっぽにした。帰宅して飯を食べて寝た。何も進まなかったような日だった。でも毎日文章を書いて80日が過ぎた。悪くない。

One of thesedays 79

バイト2日目。
朝起きて、アメリカで描いた鳥の絵にチフミにサインを入れてもらって、現場へ向かう。今日の午前中はシンセンくんは予定があるので、ひとりで作業した。

昨日のホームセンターで教えてもらったようにタイルをグラインダーでカットした。次は、タイルを貼るセメントと水を混ぜて練った。全部で5箇所を貼り替える予定で、5つ目を作業しているときにオーナーの鈴木さんが現れた。キリのよいところまで作業して、鈴木さんに絵を見せた。このお店ROOSTは海の近くにあって「鳥が木で休むようにお客さんがリラックスして、また羽ばたいていく」というコンセプト。鳥の絵を鈴木さんとお店のあちこちに飾ってみながら、反応を確かめていると鈴木さんが、

「ぼくは絵は詳しくないから分からないんです。けれど、この絵はいいですね。お店に絵があるといいですね」と言ってくれた。

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とりあえず、絵をお店に置いて、鈴木さんと音楽の話しで盛り上がった。そこにシンセンくんが現れ、お昼を食べに行った。唐揚げ屋さんでお弁当を買って海で食べた。

シンセンくんと共感するのは、ライフスタイルをつくっていること。安定よりも、これからどんな暮らしが心地よいのかを試みているところ。シンセンくんは音楽をやりながら、デザインや野菜づくり、古民家再生などをやっている。もしくはやろうとしている。シンセンくんと話しているうちに、昨日の編集者のメールのことが腑に落ちた。

書き手は、自分のことを書くのではない。物語を書くのは、書き手だけれど、語るのは登場人物や出来事だ。太宰治走れメロスは、メロスの物語だから太宰治の姿や言葉は、物語の向こう側に消えている。こうやってブログを書くのと、物語を書くのは違う次元にある。県北クリエイティブの編集者は、それを言っていると気がついた。適当によいですね、とか、オッケーです、と返事をくれるひとは、たくさんいるけれど、しっかりとディレクションしてくれるひとは、滅多にいない。実際は、ヘタな原稿がウザいと感じているだけかもしれないけれど。

シンセンくんを題材に記事を書けば、ぼくは原稿から消えることができるかもしれないと思った。

午後にタイル貼りの仕上げをして、3時ころには完了した。シンセンくんが鈴木さんに電話すると、現れて仕上がりを喜んでくれた。そして、奥さんとも相談してあって絵を買ってくれることになった。

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早く仕事が終わったので、シンセンくんの家に遊びにいった。茨城県常陸太田市。大きな敷地に古民家、平屋、畑、森、竃、薪風呂がある。立派な家。こうした家が相続されなくなっている。数十年前には信じられない。シンセンくんは

「この家に暮らすようになって気持ちよくて。ああ、これだな、と思うよね。なんで、東京に縛られてたのかと思うよ。まあ、今だからそう感じるのかもしれないけど。でも、これからもっと地方は需要でてくるよね」

夜、シンセンくんが野菜づくりをバイトしながら学んでいるスペイン人のオラシオが現れて、3人で、ワールドカップの日本戦を観戦しに、居酒屋に出掛けた。居酒屋には50人くらいが集まって、大騒ぎしながらサッカーを観戦した。子供たちにサッカーを教えている人と話しをしていると、ポスターをデザインして欲しいという話しになった。

4年前のワールドカップのとき「アイムアフットボールというコンセプトをつくったのを思い出した。自分の夢をサッカーボールのように人から人へ伝えていけば、ゴールできるかもしれない。あれから4年が経った。ぼくは、家を直せるようになって、カヌーもつくった。夢はもう叶っている。もっと大きな夢を持てる。また、新しい挑戦ができる時期に来ている。

One of thesedays 78

月曜日。
昨日の夜、アルバイトの準備ができていなかったので、朝起きて、アトリエに寄って大工道具を車に積んで、常陸多賀へ向かった。8時30分に駅待ち合わせだったので高速で行くことにした。地方とはいえ、朝は道が混む。高速を使ったおかげで8時35分に着いた。

アルバイトに誘ってくれた音楽家のシンセンくんと合流して、現場に向かう。今日の仕事は、美容室のタイル貼り。美容室の入り口に施工してあるウッドデッキを撤去して、下に隠れているタイルを見えるようにして、いくつか欠けているタイルを交換するのが今回のミッション。

シンセンくんは、常陸太田の古民家に住んでいて、かつて東京でDJをしていた。たくさん共通の知り合いがいて、いままで会ったことがないのが不思議なくらい、親近感を覚える友達。

クライアントは、ROOSTという名前の美容室のオーナー鈴木さんで30代半ば。シンセンくんが、ぼくのことを話していてくれたので、作品に興味を持ってくれていた。会うとすぐに美容室に絵を飾りたいと相談してくれ、ROOSTの由来を聞くと、鳥の止まり木だと説明してくれた。すぐにピンときた。アメリカで描いた絵のひとつは、枝に止まる鳥だった。その絵の話をすると見たいと言ってくれた。

今日の仕事は、ウッドデッキの撤去からスタートして、ホームセンターにタイルを買いにいくこと。似たような色のタイルを探した。あったけれど切らないとハマらない。ホームセンターでカットのサービスを相談すると、値段の割には、仕上がりが悪いのでおススメできないと言われる。代わりに親切な店員さんがタイルのカットの仕方を教えてくれた。タイルをカットする刃をグラインダーに取り付ければ、簡単にできるらしいので、やってみることにした。

美容室に戻る途中、昭和から時間が止まったラーメン屋をみつけて入ってみることにした。70歳くらいの男の人がひとりお店にいた。お昼なのに誰もお客さんがいない。ぼくはチャーシューメンを頼んだ。おじいさんは、ラーメンをつくりながら話しはじめた。

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「こんなお店は流行らないよ、もうとっくに競争に負けているから、ただ続けているだけだ」
おじいさんは話すたびに
「ちょっと話しは後にしてくれ、ラーメンをつくりたいんだ」と自分から話し始めたくせにそんなことを言う。
それでも
「いまは大変な時代になった。君たちは可哀想だよ。何をやっても儲からない。役人ばかりが儲かる時代さ。少しずつ、奴らは準備してたんだ」と話しを続ける。
「悪いが話しは後だ。ラーメンづくりに専念させてくれ」
と言いながら
「わたしがお店を続けられたのは健康だからだよ。健康だけが大事さ。もう競争にはとっくに負けているから」
と結局、話しは止まることなくラーメンが出てきた。ラーメンと一緒におじいさんはカウンターから出てきて話し続けた

「もう土地だって価値がないから、息子もいらないって言うんだ。ここにラーメンを食べに来る人もいないからな、もういつ店を畳もうかと考えているよ。大変な時代だよ。わたしが言えるのは、健康が一番だということさ」

結局、ラーメンはそれほど美味しくなかったので、おじいさんの話にも説得力がなかった。

午後、美容室に戻って、タイルを磨いて、明日の準備をして夕方に仕事を終えた。帰りは高速を使わずに帰って、アトリエに寄って、明日の道具を用意して、美容室のオーナーに見せる鳥の絵を車に積んだら8時を過ぎていた。メールをチェックすると、県北クリエイティブというサイトの編集者からメールが来ていた。

「石渡さんに声をかけようかなと思っていましたが、なかなか編集しがいのある原稿ですから、もっと事実に即して記事を書いて頂けるならまたお願いしたいと思います。ぜひ企画を送ってください」
サイトが今期も続くならまた記事を書きたいとメッセージした返事だった。

One of thesedays 77

6/17 日曜日
いわき市田人のモモカフェの10周年に参加した。先月、田人で開催されるアートイベントの会議に誘われていったら、それは前日で、町の会議をやっていて、そこにいた方々が暖かく迎え入れてくれ、縁を頂き、モカフェに参加することになった次第。何がどう転ぶか分からない。

モカフェでは、会場装飾にガーランドづくりをやった。チフミは毎回消しゴム判子のスタンプを用意して、子供たちが気軽に参加できるようにしている。オープンと同時に家族連れがやってくる。子供たちが集まってくる。ハンコをはじめて押す子供もいる。ハンコを布から離すと、現れる模様に目を輝かせる。

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つくってくれた旗をひとつずつ会場に装飾していく。参加者のみんなと一緒に会場をつくるアート。

いわき市田人という山奥の集落で開催されたフェス。フェスだから音楽が演奏される。名前も聞いたことのないアーティストたち。場所と雰囲気に合った音楽。演奏者たちは、子供から老人までを楽しませるような柔らかさを持っている。

ドブロク。3人組のロックバンド。ポエトリーとハーモニーが素晴らしい歌を聴かせてくれる。ベースの人は、レッチリのフリーのようなグルーヴを効かせていた。ほどよく熱いバンド。

出演者のひとり、Miya Takehiroこと宮くんが、ガーランドに興味を持ってくれ
「大人もやっていいですか」
と旗をつくってくれた。たくさんの野外フェスでライブをやっている宮くんは「旗の装飾はたくさんみるけれど、来場者と一緒につくるのは、はじめてだし素晴らしい」と言ってくれた。

アトリエのArigateeを訪れてくれたいわき市のナオトさんも、旗をつくりに来てくれた。

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夕方にイベントは終わり、打ち上げに突入した。ワシントンDCから日本を自転車で旅しているマイケルと話した。マイケルは、3.11に関心があり、現地の人の声を聞くために旅をしている。マイケルは、仏教に興味があって大学で勉強していたとき、先輩に四国のお遍路巡りを勧められて日本に来たんだ、と流暢な日本語で話してくれた。お遍路に続いて2度目の旅をしている。

出演者たちと話しをした。みんなかなりの数のライブをやっていて、出演者同士も仲良く、日本のあちこちで小さなフェスが開催されていて、みんなそこかしこで出会うそうだ。関西弁のトークが印象的な中西さんは、滋賀県からライブしに来ていて、年間200本のライブをしているという。それだけやるのだから、ほとんど家にいなくて、家に帰ると、子供が歩くようになっていたり、喋れるようになっていて驚く、と話してくれた。

日が暮れてきて、帰ろうかなと思っていたら、モカフェのオーナーの桃太郎さんが焚き火をやろうと誘ってくれ、小さな焚き火を三つつくった。肌寒くなってきていたので、会場に残っていた人が集まってワイワイと賑やかになった。

8時を過ぎると、帰る人が増えていき、出演者の宮くんが、泊まっていくというので、せっかくなので、お酒を飲みながら話した。

宮くんは、東京の府中に奥さんと子供と暮らしていて、やっぱり日本中のフェスティバルを旅するように渡り歩いている。北海道では、農場が主催するイベントがあって、マイクもスピーカーもなく、宮くんはウクレレだけを持ってライブしに行くそうだ。小さな会場に呼ばれても、そこに音楽を愛する人がいるなら、できるだけいろんな場所で歌えるように、ピアノの弾き語りスタイルからウクレレに変更した、と話してくれた

10時近くなってきたので、家に帰ることにした。明日は朝から久しぶりにアルバイトをする。

 

One of thesedays 76

朝からアトリエにお客さんが来た。3月に開催された桃源郷芸術祭で、ツアーに参加した学生さんとその友達が、北茨城を訪ねてきてくれた。桃源郷芸術祭のコーディネーターの都築さんと、今年は一緒に企画する予定だと話してくれた。

もうひとりお客さんがあって、林業をやる古川さんが遊びに来てくれた。森を整備して使わない材を再利用する話をしに来てくれた。前回、お手伝いした森の木が使えないか、森の持ち主に話してくれることになった。もうひとつ、古川さんに教えて欲しいことがあって相談すると
「じゃあ、今日やってみるか!」
と言ってくれた。
古川さんは、釣りの師匠になった。

午後は、ガーランドづくりの相談に、アトリエがある集落から最寄りのお店、東屋さんのカズエちゃんがきてくれた。カズエちゃんは、高齢者の健康管理サポートの仕事をしていて、その一環で、ガーランドづくりをやろうと話している。旗づくりは日常では接触できない世代と交流できる貴重な経験。

夕方、古川さんと釣りをするために、河口へ行く。古川さんの釣りのスタイルは、できるだけお金を掛けずに近場でやる。理想的なスタイル。古川さんが山仕事で仕入れてきたミミズが餌。 

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16時からスタートして約2時間、まったく反応がない。場所を変えても反応がないので、そろそろ終わりかなと話したとき、古川さんにヒット。
「きたきた!」 釣り上げると大きなウナギ。

橋のうえから様子を見ていたおじさんが走ってくる。何か言われるのか。
「いやー!見てたよー!素晴らしいウナギだ。これは大きいな」
おじさんは注意するのではなく、ウナギ好きらしく、ここから30分ほどウナギトークがはじまった。 おじさんが言うには鮭もいるらしい。震災前と後では、北茨城の海の地形が変わって、魚がとれなくなったものの、今でもいろんな種類の魚介類が生息している。

最近、ウナギが絶滅危惧種という話題がある。けれども、ウナギは、いろんな川に生息している。千葉に暮らす友達が罠を仕掛けて獲っていたのを思い出した。 天然モノという言葉があるけれど、自然に生息しているという意味なので、本来はゼロ円のモノ。けれども、仲介者が手に入れられない人に届けることで、いつの間にか高級品に変わっている。そもそも、すべてが天然なのだから、自力で狩猟採取する人が食べるぐらいで、ウナギが絶滅危惧種なるはずがない。むしろ動植物が絶滅する環境をつくっているは人間。自然の環境下でウナギが絶滅してしまう危惧があるという話ではない。

ウナギ好きのおじさんは
「ウナギがどこで獲れたかは言っちゃダメだよ。想像してみて、もしここで獲れるって情報が広まったら、ここは釣り人でいっぱいだよ」
想像するだけでゾッとした。

自分の身の回りにあるモノ。それを活かして生活できるのであれば、それでこと足りるのであれば、それが美しいと思う。もっともっとという欲望のエネルギーを何に変えていけばいいのか。変換するにはどうすればいいのか。そこを考えてみたい。 もし地産地消で事足りるのであれば、原発も必要ないし、あんな事故も起こらなかった。遠くから批判するのでもなく、敵をみつけるのでもなく、日々の暮らしの中で、よりよい生き方を実践していく、そんなやり方を求めていたんだと思い出した。

One of thesedays 75

44回目の誕生日がきて、免許の更新にいった。違反者講習は月に2回しかやってなく、また日を改めることになった。フジロックの出店のために保健所に検査にいった。毎週火曜日が提出日で、これも日を改めることになった。帰りに市役所の食堂でお昼を食べることにした。なんとこの食堂も臨時休業だった。では、お気に入りの店で海鮮丼を食べようと向かうと、ここもお休みだった。何ひとつ計画通りに進まない日。チフミの提案で大津港駅前の喫茶チャムでお昼を食べた。

そこにあった漫画サラリーマン金太郎を何気なく読むと、すぐに惹き込まれた。漫画のなかにこんな話しがあった。

 「ある商社が、ものを売ったり買ったりではなく、人材を育てるサービスをはじめる。都市圏では、競争が激しく伸び悩むので、地方の過疎地を生活圏にして、一次産業に従事して安い生活費で、もう一度、人間が生きるチカラを取り戻す」という事業の計画案がでてきた。

この漫画は2007年発行なので、原稿が書かれたのはもっと前だ。漫画の題材になるようなことが、いま起きている。まさにぼく自身がこの商社のようなことをしている。

サラリーマン金太郎は、都市圏に暮らす人間の目が死んでいると訴える。働くことは、奴隷ではない。けれども日本の社会構造は、搾取ばかりで暮らしは一向に豊かにならない、と嘆く。金太郎は日本のひとりのサラリーマンとして、日本を変えてやる、と燃えている。ぼくも燃えている。

午後は波の作品をつくった。スケッチだ。できるだけシンプルに波のカタチを捉える。最近は波の作品をつくってばかりいる。

夜は大学の恩師から依頼されたイベントのチラシをデザインした。"Planetary Atomospheres and urban society after fukushima"という本の出版イベント。最近描いていた波の絵は、チラシの挿絵になった。役に立たないことなんてない。


英語の解説文によると

2011年3月に東北を襲った津波地震は、福島第一原発を崩壊させ、自然と社会と精神環境にも影響を与えた。わたしたちがこの地球に暮らし続けるためにも、この出来事から、どれだけの意味や教訓、思考をつくることができるのか、わたしたちは、その試みをシェアしたい。

3.11は、日本人だけでなく、福島だけでなく、この地球に生きるすべての人間に関係あること。問いは、この惑星のどこにいても犠牲者になれば孤立してしまうすべての出来事に、どういう関係性を見出すことができるのか。すべてが福島だというのではなく、酷い状況のなかで難民として生活を余儀なくされる環境があることは、わたしたちが、この出口のない状況に加担してしまっている。わたしちが日々のなかで実践しながら、再生の道をみつけることが、この問いのテーマでもある。

意訳になるけれど、日本人の教授や研究者たちが、英語で、こういう本を出していることに、驚いてしまう。日本国内には、こういう考えや研究が流通していない。発展と進歩を謳う社会の向こう側には「isolate=孤立」が待っている。この惑星の住人として、知るべきことを知らないまま日々を過ごしてしまうこと。これほど恐ろしいことはない。利益のために誰かを傷つけて搾取してしまう構造が世界に蔓延している。一杯のコーヒーですら、誰かの犠牲のうえに成り立つ。

何ひとつ計画的に進まなかった今日は、自分が抱えてきた想いの原点に漂着した。免許の更新も保健所もランチも、どうでもいいことだ。そんなことよりも、大切なことがある。大切なことは目に見えないし聞こえない。それは隠れている。光ばかりを見れば影を忘れてしまう。

ぼくが北茨城市に暮らしていて、原発から100km圏内にいるのは、遠くから眺めるだけでなく、この問題から目を逸らさないためでもある。そういう思いで、この地にきたことを思い出した。いまいる場所から何が見えるのか。何が聞こえるのか。何が言えるのか。そのすべてを表現に変えていく。renewal=再出発だ。一日の出来事を拾い集め、丁寧に観察してみれば、驚くほどのメッセージが織り込まれている。カットアンドペースト、コラージュがぼくの生きるための技術だ。