いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

買う必要のないものを買ったら最後、やがて、 なくてはならないものまで売り払うことになる。

頭のなかで、アイディアや想いがとぐろを巻いて、奥深くに隠れて、全体を掴みようがない。ときたま、片鱗がキラっと輝き閃きを感じるが、それを捕獲するには書き留めるかスケッチしなければ、すぐに逃げてしまう。

本を出版する編集者と話して、いまある原稿の最初に置くテキストを追加することになった。その課題こそがまさに上文章に書いたようで、掴めない状態のまま、こちらを窺っている。

「欲しい」という欲求もアイディアや想いと同じように頭に張りついている。でも、ほんとうは必要がないこともわかっている。かと言って、急激に持ち物を減らせば、必要なものまで、手放すことになってしまう。

引っ越しのために、業者を呼んで見積もりを取った。3社の対応はそれぞれで「何処の会社より安くします、ウチにやらせてください!」という担当者まで全くやる気のない担当者まで。言わずとも前者に依頼した。彼のおかげで引っ越しは格安になったが、所有することへの疑問が残った。すでに本は半分以上減らしたがまだ多い。

それなのに欲しいモノは本。ベンジャミン・フランクリンの自伝。かなりの名言が書かれていて長く使える本だろうから手元に置きたいと欲している。

本は読むものではなくて、行動するためのもの。エネルギーを得るためのもの。いくら吸収しても気がつくとペースが乱れて、快調に日々を積み上げることができなかったりする。総じて余裕がないとそういう状態になる。

大量に本を売った古本屋へいき、本棚からボロボロの「フランクリン自伝」を発見した。160円だった。店長が先日はたくさんの貴重な本を売ってくれありがとうございます」と言ってくれた。収集したものを褒められて気持ちがよかった。所有するなんて、それぐらいの価値しかないのかもしれない。

フランクリン自伝には「富へ至る道」という付録が最後にあり、名言のDJ MIXのように、それだけを繋いで文章をつくった逸品がある。

人生を大切に思うと言うなら、時間を無駄づかいするな。
時間こそ人生を形作る材料なのだから。

仕事を追いたてよ。仕事に追いたてられるな。

怠け者が寝ている間に深く耕せ。

売ったうえに、手元におく余分の取り入れが得られよう。

明日なすべきことあらば、今日のうちにせよ。

怠けているところを自分自身に見られることを恥じよ。

わずかな出銭に気をつけよ。
小さな漏れ口が大きな船を沈める。

買う必要のないものを買ったら最後、やがてそのうちに、
なくてはならぬものまで売り払わねばならぬことになる。

井戸枯れて水の尊きを知る

昼飯の見栄、夕食の侮り

かまどを2つ築くは易く、かまど一つに火を絶やさぬは難し

得られるものは得よ
得たものは手放すな。

ご覧の通り。
いよいよ、春から愛知県に引っ越して好きなことを職業にして生きていく。この日記でも、生活のことばかり書いているけど、実際のところ、唯一ぼくがお金を生み出せるのは、作品をつくって売ることだ。作品をつくらなければ始まらない。作品をつくることについて何かを書きたいが、実は費やす言葉がない。そもそも、そこに言葉が存在していない。頭のなかにアイディアや想いがとぐろを巻いていて、そいつを捕まえてカタチにする。文章であれば言葉を並べるところだが、絵や物体は手を動かすだけ。

作品は、完成しても熟さなければ欲しい人は現れない。然るべき流れがあって、出会うべくして人と作品は遭遇して、既知の関係になる。ぼくが作品について費やす言葉はタイトルだけだ。それが作品の意味を伝える唯一の鍵であり象徴だ。

こうやって書いているのも、とぐろを巻くアイツを狙ってのことだ。人生は、どこか遠くでもなく、常に自分の足元にある。気がつけば、誰にも奪われることがない宝物がゴロゴロしている。大好きな音をレコード屋の棚からみつけるように、日々の仔細な出来事を耕して、こうして種を撒いている。


夫婦で作品をつくる
コラージュ・アーティスト
檻之汰鷲(おりのたわし)
http://orinotawashi.com/

生きる芸術のための生活者
石渡のりお
norioishiwata@gmail.com