見えない星を求めて。現代の仙人に会った話

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仙人に会った。きっと、こんな体験をした昔の人は、そう呼んだのだと思う。仙人は炭焼き小屋の上に住んでいた。誰も行かない、小高い空に近い場所に家を建て、自作の天体望遠鏡で、超新星を観測していた。

ずっと遠くの未だに発見されていない星をみつけるために、大学や研究機関が何億円も出資してつくる装置を自作してしまった。何百万円で。仙人が北茨城のこの山に引っ越してきたのが70歳。それから12年、仙人は星を探してきた。

「星をみることは宇宙に行くこと。だから、地球を見ることにもなる。この部屋は、ヨーロッパからアフリカ、アジアに別れている。世界を見渡しながら生きている。わたしは日本という単位では生きていない。」

仙人の家は北茨城産の木材で建てられた自作のログハウスだった。ドアには、素敵なステンドグラスが嵌めてある。

仙人は、この2年ほどで自分史を完成さたらしい。まだ膨らませることができるけれど、とりあえず5000枚。それを国会図書館に収める。自分が生きた記録を後世に残すために。100年後でも200年後にも発掘されればこの時代を読み解く鍵になる。

仙人は言った。

「歴史は、勝者の記録。名もない庶民の生活は、歴史に残らない。だから、わたしは記録を残したい。」

仙人は、自作の天体望遠鏡をみせてくれ、こう教えてくれた。

「夜、空を見上げれば星がみえるだろ? その星のひとつひとつは、恒星で、つまり太陽と同じで、その周りには地球のような惑星が存在する可能性があるんだよ。そう、宇宙人なんて夢でも空想でもない。けれど、もう時間がない。大切なことは、継続することだ。エネルギーを費やし過ぎて、続かなかったら、やらないに等しい。だから、自分のペースで続けることが大切だ。」

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「わたしという存在は、数分で構成している分子が新しくなっているし、わたしたちは、話しをしながら、分子を交換しているんだ。いまもぼくの身体を宇宙線が貫いている。この見えない線が、細胞のどこかに衝突する。そういう可能性もある。その衝撃が、突然変異を起こす。その繰り返しで、人間は進化したんじゃないだろうかと思うんだ。けれども肉体は老いていく。だから、畑仕事をして健康を保っているよ。」

宇宙からDNA、孔子から禅、細胞の話から不老不死、イスラム教とキリスト教の攻防、スペインとモロッコ、日本とアメリカ、そして、社会へ庶民がどう参加するべきなのか。82年分の博識が披露され、ティータイムは終わった。まるで手塚治虫火の鳥に出てくるマサトのようだった。なぜ、星を観測する場所が北茨城だったのか尋ねると「岡山県に次いで日本で晴れの日が多い場所なんだよ。」と教えてくれた。北茨城の空が、夕焼けがいつも美しいのは、そういう理由だったんだ。生きている場所が悪いとか、魅力があるない、とかではなく、目の前にあること、起きていることを感じる心があるか。何をみて、何を聞いて、何を考えるか。82歳のとき、ぼくは何をしているのだろうか。人生がそれだけ続くなら、いまから何を始めても遅くない。

昼と夜が逆転する星を観測する生活が厳しくなってきた仙人は、手伝いと話し相手を必要としているようなので、春になったら仙人の天体望遠鏡で、宇宙を覗いてみようと思う。

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