いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

シンプルになる。動くところにカタチが生まれる

これはコトバにしたい。忘れてしまう前に。

木曜日の朝、目が覚めてから体調が優れなかった。それでもやるべきことはあって、炭焼きの木を伐りに山にいかなければならなかった。師匠の有賀さんが呼びにきて平さんと3人で山へ入った。いつもこの3人で炭焼きの作業をしている。

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有賀さんが木を伐って丸太にして平さんが枝を落とす。その枝を集めたり、丸太を寄せたりした。この日は、あまり積極的に作業できなかった。

炭窯に木を運んで、穴を掘って、土と水を入れてスコップで混ぜて粘土をつくった。窯の入り口の壊れた箇所を粘土で修復した。それも師匠の2人に任せてしまった。チカラが出ないまま炭焼きの作業は午前中で終わった。家に帰ってこれはダメだと思って、風呂に入って寝た。昼なのに。夕方起きて、ご飯をたべて

「明日は回復していように」と祈るようにまた寝た。

金曜日。起きたら体調は回復していた。よかった。この日は有賀さんが午後から参加なので、それまでに炭窯に火を入れてガンガン燃やしておく計画だった。そうしておくように師匠・有賀さんに頼まれていた。

窯の入り口に火をつけて、午前中ずっと燃やし続けた。妻のチフミ、平さん、見学に来た友達、みんなで楽しく燃やしていた。ところが午後に有賀さんが現れて「なんだ!ぜんぜん燃えてないな!これじゃダメだ」と珍しく感情的になった。普段は楽しいことしか言わない温厚な有賀さんなのに。有賀さんは、もっと燃やすためにブロワー(空気を送る道具)と発電機を取りに戻った。道具を揃えると自分たちの燃やし方がままごとに見えるほど激しく燃やした。確かに燃やし方の次元が違っていた。午後3時ころまで燃やしたけれど時間切れになった。窯は燃えていたけれど有賀さんは「100%明日には煙は消えるな」と言った。「お前たちがちゃんと燃やしていないからだ」とは言わないけれど、そいう気持ちが伝わってきて、なんだか辛かった。そして「明日午前中も俺はいれないから、燃やしておいてくれ。それから木も足りないからどっかから伐ってくる必要もあるな」と言い残して速攻で帰ってしまった。

これは修行なのだ。課題が与えられた。問題は二つ。有賀さん抜きで燃やして納得してもらえるのか。それからソロで木を伐るのは初めてだということ。

それでもその夜は、前日の不調を忘れるほど調子がよかった。身体を動かしたからだ。一日中、火を燃やしていたからか温まっていて、身体の奥から元気が湧いてくるようだった。その夜はお酒も飲まないで、携帯にも触らないで何もしないことにした。そういう気分だった。本も読まないで、薪ストーブの火で暖まりながら、妻と話をして犬と遊んだ。明日の朝は早起きして、木を倒して、薪をつくって、炭窯に上手く火を入れるイメージをして早く寝た。

翌朝、日の出と共に起きて木を倒した。狙った方向に上手くできた。枝を落として、丸太にして、いつも有賀さんがやっている作業をやった。一本では足りない気がしたので、もうひとつ木を倒した。枝を落として丸太にした。軽トラックに積み込んで、炭窯へ運んでおろした。そのとき、女性のように見える丸太があった。森のヴィーナスだ。そう閃いたからそれは作品用にトラックに残すことにした。

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前の日に有賀さんが使ったブロアーと発電機を試運転した。問題なく動いた。炭窯の蓋を開けて再び火を燃やした。すると有賀さんから電話があった。

「ブロアーでガンガン燃やしてくれ」という注文だった。木を倒して薪を作ったと報告すると「それでは足りないからもっと伐った方がいい」と木を伐れる場所を教えてくれた。

ブロアーで燃やしておいてと妻と平さんに頼んで、木を伐りにいった。暫くして妻がクルマで現れた。何か起きたのかと思うと「ブロアーが動かない。どうしよう」という。上手くいかないときは重なるものだ。「買ってくるしかない」と言うと、妻はクルマを走らせた。

木を伐って薪をつくって炭窯に戻ると、昨日見学に来た友達がまた様子を見に来て段ボールで風を送ってくれていた。火は風を受けて燃え上がる。妻が戻ってきて、新しいブロアーで炭窯に風を入れながら燃やした。日常ではありえないレベルで燃えて煙を噴き上げた。

「走り出しそうな勢いで燃えているね」友達がいった。

平さんは、ブロアーを解体して修理をはじめた。木工をやったり苔玉を作ったり器用な師匠で名前の通りいつも穏やかな人。

有賀さんが来る午後まで薪が足りなくならないように、あと一時間、あと30分、調整しながら燃やし続けていると、有賀さんが現れた。何も言わずにまっすぐ窯に来て言った

「いいな。よく燃えている」「木を伐ったのか。よくできたな」その言葉はOKの合図だった。よかった。

窯の付近に穴を掘って、土と水を入れてスコップで混ぜて泥をつくって、小さな空気穴を残して、大谷石で塞いで隙間を泥で埋めた。

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窯は蓋を閉じても煙を噴き出していた。これで今日の作業は終わり、かと思いきや有賀さんが「薪つくるべ」と言った。

薪割がはじまった。汗をかいて、みんな「暑い」と言って、服を一枚ずつ脱いだ。薪を割り終わると、不穏なムードは消え去った。この数日のイベントも終わり有賀さんに笑顔が戻った。ちょうど平さんが修理していたブロアーも直った。この日は、12月とは思えないほど快晴で気持ちのいい日だった。

 

この数日間は流れが変わる渦のなかにいたようだった。これまでの自分から新しい自分になった。それは身体を動かすところに生まれた。それは自然に対して働きかける動き。そこに新たな表現を感じた。ムーブから生み出されるカタチ。運動とアート。森のヴィーナスを完成させよう。

これは、先週末にチフミの実家に行ったときの縄文巡りから続いている。実際は関係ないのかもしれない。けれども、起きた出来事、考えたこと、それらを繋げていくと、そこに物語が生まれる。

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