いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

進むべき道は、歩いた先に現れる。

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「北海道の湧き水がある土地を見て欲しい」

という話からはじまって、札幌市からクルマで30分ほどの豊滝という場所を見に行った。久しぶりの旅がまさか、この先に影響を受けるほどの体験になるとはまったく予想外だった。

豊滝の竜神の水は、分け隔てなく取りに来るすべての人にその美味しさを与えていた。これこそが自然だと思った。水を取りに来ている人は1年経ってもその鮮度は落ちないと教えてくれた。

北海道に招待してくれたジンさんは、この湧き水の土地とフルーツ農家の土地を併せて、将来的にエリア化する計画で、その始まりの始まりに参加させてもらった。

今回は、この場所の視察だけかと思って長靴も用意していた。しかし、せっかくの北海道だからということで案内人にカツミさんなる人物を呼んでくれ、2日間で飛生(とびう)アートコミュニティー安田侃さんの彫刻作品が並ぶ公園「アルテピアッツァ美唄」を見て回った。そこには、これから自分がやろうとしていることの、この先のずっと未来があるように感じるほどの出会いだった。

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飛生アートコミュニティーは1986年に白老町国鉄の職員として暮らしていたカツミさんが、職員をやりながらアート活動をするという異例の働き方をしていて、廃校になる小学校の活用を相談され、国鉄からJRに変わるタイミングでそこをアトリエにして本格的にアート活動をする拠点にしたことに始まる。ところがまさかのJRで働くことになり、廃校の活動はできなくなり、代わりに国松明日香さんという彫刻家が飛生の廃校に暮らしアートコミュニティーを運営した。そのときに国松さんの子供だった希根太さんが現在、その小学校を拠点に活動していて、2009年頃からアートイベントを開催し、いまでは全国に知られるイベントへと成長していた。国松希根太さんも作家として活躍していて、いくつかのキーワード「Horizon」「過疎地」「DIY」「廃校活用」「芸術祭」等が重なることもあって、いろんな話が参考になった。縁を感じる出会いでもあった。白老町は、アイヌの里で知られ、ウポポイというアイヌの資料館を兼ねた施設もあって、とくに白老町の海の景色に惹かれるものがあった。冬のこの海の色とカタチを、いつか作品にしてみたいと思った。

その翌日には、美唄(びばい)出身でイタリアで成功した彫刻家、安田侃(やすだかん)さんの彫刻公園にいった。巨大な石やブロンズの作品が緑の大地と青空の間に配置されていて、空間そのものが素晴らしくアートになっていた。カツミさんは、この公園の立ち上げにも関わっていて、作家の安田さんが自費でこの巨大な彫刻を輸送していることを教えてくれた。当然のことながらこの彫刻の材料費も製作費も巨大なもので、それでもこの作品が欲しいと更に大きな金額が動く。お金だけでなく人も動く。カツミさんはJRのアート面をプロデュースする仕事をしていたことから、安田さんの作品を新しくつくった札幌駅に設置したエピソードも話してくれた。

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安田さんの彫刻が並ぶ公園「アルテピアッツァ美唄」も廃校を利用した公園で、体育館、学校等が展示スペースやレストランなどとして活用されている。この環境に惚れ込んで各地から移住したスタッフがNPO法人化して運営している。作家の安田侃さんが中心にいて、カツミさんがそれの実現に向けて協力したエピソードも聞いた。

飛生アートコミュニティーアルテピアッツァ美唄も、アーティストだけでやるれる仕事ではなく、多くの人の協力があって、今現在まで継続している。

ぼく自身は、茨城県北茨城市で芸術家として地域に受け入れられて、アトリエとギャラリーをつくり、さらにこの集落の景観をつくるプロジェクトへと活動してきた。ひとつずつ目の前に現れることをどうしたらアートとして表現できるのか自問自答しながら進んできた。この先に進むべき光景が、北海道の大地に展開されていた。表面的に真似ることはしないけれども、そのやり方は大いに参考になった。この先は、ぼくたち夫婦だけがやることではなく、ここに興味を持つ人たちが実践できる場として開いていくことも大切だと知った。

何より巨大な野外彫刻というお金も人も動かすスケールに感動した。尊敬するカップル芸術家クリスト&ジャンヌクロードを思い出した。大きなことができるスケールとはその器を指す。まったく飾るところがない真っ直ぐな希根太さんの人柄、北海道の地にアートを根付かせ支援する活動をしてきたカツミさん、ぼくたち夫婦を北海道に招待してくれ、これだけのモノを魅せてくれたジンさんの大きさ。

ぼくはまだ環境を手に入れつつあるだけで、何も始まっていない。むしろ、これからはじまる物語がある。近い将来、ジンさんのプロジェクトでの野外展示を目標にした。

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