いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

生まれ生まれ生まれ、死に死に死んで。

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北茨城市でイベントをやろう」という話があると誘われてZOOMミーティングに参加した。観光庁補助金があって、それに申請して「やろう」ということだった。何より誘ってくれた人が北茨城市でイベントをやりたいと夢を温めていたので、ぜひ応援したいと考えていた。
補助金狙いの人たちは北茨城市のことは何も知らなくてインターネットで調べたことをまとめて企画書にしていた。中身はなかった。
数日後に企画を新たに、こちらがやりたい企画にまとめて先方とミーティングした。ところが、その企画は先方のイメージと違ったらしく「これじゃ助成金取れませんね」と言われ「五浦天心美術館で」「あんこうをテーマに」と企画の方向性は変わっていった。先方は助成金を獲れれば何でもよかった。ぼくたちである必要もなかった。

岡倉天心って名前を出したいから、そういう何かはないですかね? 桃源郷って場所では何をやっているんですか?」
「景観を作っています。この集落の景色自体がアートなんです。炭窯を作って炭を焼きました」
「うん、それはそれでいいですけど、岡倉天心に関連した何かはそこにはないんですか」
「すいません、質問ですが、有名ではないモノや場所を活用して、そこの知名度をあげるとか、そういう話じゃダメってことですか?」
「はい。それはインパクトがないからダメですね」

とても大事な話だと思った。目立つモノを利用して注目を集めて経済を回す。たぶん、そういうことを企みたいのだ。けれどもぼくは全く逆の場所にいる。役に立たないもの、忘れられたもの、捨てられたもの。そういうものたちが役に立つ場所をつくろうとしている。
当然ながら、企画の話は断った。ぼくは友人がイベントをやるという夢を後押ししたいだけで、助成金がきっかけになるなら、と考えたけれど、助成金のために、その夢が別のモノに変えられてしまうなら、やる意味は1ミリもない。

数年前に水のように生きたいと思った。水は高いところから低いところに流れる。水はすべての生命を潤してくれる。

だから
人より粗末な食事をして
人より粗末な服を着て
人より質素な生活をして
誰よりも贅沢な暮らしをする
を目標にした。

廃墟を改修して家をつくり、井戸から水を引いて、家の前の耕作放棄地を耕して畑にして、薪ストーブと薪風呂で暮らしはじめた。北茨城市里山限界集落で。電気は使っている。
実際は畑はあまりやってなくて、周りの人たちが畑をやって作った野菜を貰っている。季節のその土地から採れた食べ物。これ以上の贅沢はあるのだろうか。

毎日好きなことに没頭して生きていたい。会社で働くのは無理だった。ずっと思っていた。だから何のために働くのか考えた。家賃、生活費、欲しいモノ、、。それらが要らなかったら働かなくても生きていけるかも。
けれども人間は社会的な生き物だから、やっぱり働かなくては生きていけなかった。

ぼくの仕事は、妻と絵を描くこと。作品を作ること。生活そのものを作ること。生きていくための環境をつくること。そのすべてをアート活動と呼んでいる。

伝わらないこともあるけれど、ぼくを知ってくれている人が、少しずつ仕事をくれたり、絵を買ってくれたり、里山の景観をつくる活動そのものも仕事になっている。

炭窯を作って炭を焼いて、面白くて、いろいろ本を読んで調べたら、炭焼きは、職業の中でも地位が低く、厳しい労働で、それこそ貧しさの最低生活者だった。山から木を伐り出し、薪をつくり、土と水で窯をつくり、火を操って炭をつくる、人類のもっとも原始的な営みが、そういう扱いをされてきたことにブルースを感じた。ぼくの好きな音楽はそういうところからやってきたんだとはじめて実感できた。

どういう訳か、たぶん優れた人間ではないからだろうけど、真逆の方へと向かっている。けれども、競争して勝ち続けること、競争は放棄して好きな道を進む、どちら側からも生きる喜びに至る道はある。

6月15日に47歳になりました。
祖父に空海と同じ誕生日だ、と言われて
「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥し」すごい詩ですよね。偶然にも炭窯の煙突穴は大師穴と呼ばれていて空海が発見したものだとか。俄然、空海に興味が出てきました。

まさか47歳で炭を焼くとは、まったく想像もしなかったけど、この先も、それぐらい訳の分からない方向へ進むかもしれませんが、どうぞ面白がってもらえたらです。ほんとにぼくを知ってる人に生かされているので、これからもよろしくお願いします。長引くコロナで、長い間、会えてない友達もいるので、挨拶とお喋りでした。

新作はBLOOMING
咲くという漢字のはじまりは「笑」だった。「笑」は巫女が舞う様子。それが花が咲く様子。咲く花、笑う花。

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