いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

30万年前の生きるための技術

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「日の良いときに炭窯を完成させましょう」ということで、5月23日、24日に地域の人たちに協力してもらって、炭窯づくりのイベントが開催されることになった。

23日は雨で延期になり、24日の大安に炭窯づくりのイベントが開催された。地域の人、役所の職員、消防団員など20名ほど集まった。

仕事は、木を運んで並べて、隙間にも枝を詰め込んでパンパンにする。さらにドーム型になるように枝を並べる。その上に筵を並べる。一輪車で土を運んで載せて叩いて、炭窯をドーム型にする。

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数人では厳しい労働も、人数が集まれば予想以上に作業は捗り、午前中にカタチが見えてきた。お昼ご飯は、すみちゃんが、お赤飯を炊いてくれ、お煮しめとお味噌汁が振る舞われた。食べ物を分け合うのは田舎の特徴で、きっとこうやって生きてきたんだと思う。

 

午前中、炭窯の様子を記録撮影しているところに、市長さんが現れて、家を片付けているから、欲しいモノきっとあるだろうから取りに来なさい、と言われ「今?!」と心の中で思いながら現場を離れた。

不用品のなかに柱などの木材があった。使えるかもと思いながら、市長さんがこれは使えるよ、と言ったソファーを3脚頂いた。

急いで炭窯に戻って「いやー市長さんに不用品取りに来いって言われて、せっかく撮影してたのにさ」と漏らしたら「市長さんいるよ」と教えてくれる人がいた。気まずい空気になる前に市長さんに話しかけて誤魔化した。

午後は、せっかく人が集まったから、炭窯に屋根を掛けてしまおう、という話になった。屋根の材料を何にするのか、買ってくるのか、と相談しているとき市長さんの家の木材を思い出した。軽トラックで運んで来てみれば、それがすっかり炭窯の屋根の材料になった。市長さんにも御礼を言って、これからは余計なことは言わないようにしようと自分の軽口を反省した。

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結局24日に屋根まで完成して、翌日に修正をして、その次の日、火入れをした。朝から火を燃やして、午後3時頃、燃焼が安定した。

火入れの翌日、様子を見に行くと、炭窯づくりの隊長、有賀さんがせっせと動いている。なんと、炭窯にヒビが入っていた。その場に集まった人で、その隙間を粘土で埋める作業をした。午後にまた様子を見に来ると、更にヒビが増えて窯のてっぺんが陥没してしまった。

一緒に窯を作っている平さんは「失敗は失敗じゃないから。失敗を繰り返して成功するものだから。むしろ、これでよかったと思うよ、だって一発で成功してたら窯の補修方法だってしれなかったしな」と言った。

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火を入れたのが火曜日で、木曜日の夕方まで修正を繰り返した。修正するために、土に水を混ぜてドロドロの粘土を作って、ヒビに流し込む。ドロドロの粘土を作るには石や土の塊りを取り除く。この作業をやっているときに、土器の粘土づくりとリンクした。こうやれば、身の回りの土を粘土にできると閃いた。

 

ぼくは粘土をつくり、有賀さんと平さんが、炭窯を補修している。煙を吹き上げる窯は、まるで火山のようで、二人の老人が神様のように見えてきた。土を捏ねる天地創造。二人の神様が話をしている。「割れ目に砂を入れたらどうかな。そうしたら収縮しないんじゃない?」どこかから砂をみつけてきて、隙間に入れる。「その上にドロドロの粘土を流し込むとかどうかな」

そうやって活火山のように噴煙を上げる窯は、どうにかこうにか稼働している。

有賀さんが言った。「秋に窯を作り直そう。そもそもよ、人間の都合でイベントにしちゃダメだ。日が良いとかも関係ねえ。それより窯の都合が最優先だ。とにかく乾いた土。それから経験者。だから、窯に都合がいい日を伺いながら秋にやっぺ」

という訳で、炭窯づくりは秋にも行われることになった。この炭窯づくりを通じてぼくは、密かに陶芸の原点、土器づくりを想像している。この土と水と木と火と風を操る技術には、太陽も欠かせない要素だと分かった。炭窯の煙が紫色になったとき、炭が完成するという。パープルヘイズだ。

夕方、北茨城市を拠点にする陶芸家の真木さんが、炭窯をつくる土で、陶芸やってみよう、と土を採取しに来た。やっぱり、炭窯は陶芸に通じている。

 

その夜、炭焼きがどれくらい古いことなのか調べて驚いた。炭焼きは新石器時代、約束30万年前に最古の炭が発掘されている。ということは、人類が生きるために作ったモノのなかでも、かなりの初期ということにる。だとすると、炭窯づくりから、あらゆる技術が派生していったと仮定できる。

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炭窯の佇まいは、その自然のエレメントを駆使した無骨な姿が美しい。