いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

【問い】どうしてそのような活動をしているのですか?

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質問が送られてきた。

「素敵な活動を夫婦でされているのですね。カヤックもつくるんですね。また、どうしてそのような活動をはじめたのですか。」

この問いに答えるために、アート作品をつくり、家を直し、舟をつくり、魚を釣り、野菜を育てて、本を出版して生活している。答えは、本に書いてあるつもりだったけれど、シンプルに答える言葉をまだ持っていないことに気がついた。

 

答え:

アートとは何か、生きるとは何かを知るためにヨーロッパとアフリカを旅しました。日本だけでは、その二つの答えを知るには視野が狭過ぎたからです。ぼくが出会ったヨーロッパの人にとってアートは身近な存在で、家の至るところに飾ってあり、アート作品を買うことや絵を飾ることは日常でした。毎日、服を着るような行為に似ていて、つまり家のファッションでした。お洒落して毎日を楽しく豊かにする行為でした。

けれどもアフリカ大陸に足を踏み入れると、アートはずっと遠い存在になりました。ヨーロッパに比べて全体貧しく、人々は何よりも食べるモノを必要としていました。この地では、アート作品よりも、トマトやキャベツの方が価値がありました。

同じ時代、同じ地球で、それだけの違いが同じ瞬間に存在しているのです。この今も。

アフリカ、滞在したのはザンビアで、ここに暮らす人々に自分が表現するもので関心を持ってもらえることを探しました。ヨーロッパでは通じてアフリカでは通じない、興味ある人は楽しませるけれど、興味ない人には通じない、それがアートなのでしょうか?

発見したのが、現地の人々がつくる泥の家でした。このとき生活のなかにアートを発見したのです。

やってみたら重労働で、現地の人のようにはできませんでした。現地の人が3日で建てるものを10日かかって完成させました。現地の人に手伝ってもらったときに言われたことが今も心に響いています。

現地の人「お前は、家も建てられないし、野菜も育てられないようだけど、どうやって日本で生きているんだ?」

僕「会社で働いてお金を貰って生きているんだ」

そう答えると現地の人たちは揃って爆笑しました。

ザンビアだったら一カ月で死ぬな!」

 

美しい絵を描く、何百万円の価値がある絵を描く、有名な美術館にコレクションされる。現代アートが目指すものを追いかけて、その先に何があるのでしょうか。広い地球上に暮らす、いろんな人が楽しめたり、笑顔になったり、貧しさも国籍も、別け隔てなく豊かになれるもの、それが本来、芸術が目指す先だったのではないでしょうか。

つまり、生きるためにするあらゆる努力や技術にこそ、生きる楽しみや喜びがあると思うのです。自然に働きかけて、食べ物を手に入れたり、家を作ったりすることは、すべての人類が皆やってきたこと。何千年もかけて積み重ねてきたこの活動こそがアートなんじゃないでしょうか。これを「生きるための芸術」と呼んでいます。ぼくは、これを世の中に問うために今の活動をしています。

たぶん、この問いに答えが返ってくることはないかもしれません。けれどもアートとは何か、生きるとは何かについて考えて実践を繰り返していけば「生きるための芸術」が、豊かさも貧しさも超えて、人間が健康に幸せに暮らす道をつくると信じています。

 

質問してくれた方に感謝を込めて。