いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

廃墟再生日記 その2

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居住空間を開拓するプロジェクトが再開した。2日目。朝、畑に行って草刈りをした。春夏は野菜を育てたけれど、秋冬は、家を直すのに集中するためお休みすることにした。野菜を育てるには手が掛かる。まったくやらないのではなく、アトリエの周りに開墾した家庭菜園スペースを活用することにした。カブ、小松菜、白菜をやろうと思う。

空き家再生の作業のほとんどは、片付けだ。利用してこなかった空間には、利用しなくなったモノが詰まっている。不要なモノの集積が、空間自体を殺している。だから、空き家再生は、大工の仕事以前に、片付けと掃除の時間が続く。

「家」にする予定の廃墟の部屋がほぼ空っぽになった。空っぽになってはじめて空間をどのように活用するのかイメージが湧いてくる。

今回も予算はあまりないから、極力あるものを利用する。「家」がその役割を果たし、この世から消えるとき、捨てやすい素材を使いたい。建材は、常に新しい素材が開発され、それは便利だけれど、実際の耐用年数や、強度があるほどに、廃棄処分の方法は不明になる。ひとつの選択がどれだけ社会に影響を与えるのか、その波紋の行き先を想像しながらこの場所をつくりたい。この場所は、産業廃棄物の山から復活するのだから廃棄物を出したくない。今回は屋根を修理するのにトタンを使うことにした。

今回再生する「家」と「アトリエ」の両方とも屋根を葺き変える。経年劣化で雨漏りしている。100枚以上のトタンが必要になる。20万円以上かかる。それを見積もったときに、それだけの金額を払うなら、知り合いに発注した方がいい、と思い付いた。

 

ぼくたちが働いて得たお金を自分の知り合いにすべて使って生活が成り立つのであれば、ぼくの経済圏は豊かになりお互いの信頼も厚くなる。ホームセンターやコンビニエンスなどのチェーン店では、いくらお金を注いでも、豊かさは循環しない。

地域で金物屋をやっている知人に電話した。金物屋が発達してホームセンターになっていて、だから注文して取り寄せれば金物屋からでも同じモノを買うことができる。

トタンを買いたいと伝えると、トタンだけじゃなく、改修に必要な材料すべてを買えることが分かった。すぐに現場を下見に来てくれて、地域の景観を作っていること、廃墟を再生することがアートプロジェクトだと説明すると、何かチカラになりたいと言ってくれ、在庫としてストックしていた波板トタンを無償で提供してくれることになった。

午前中には、軽トラックが現れて、アルミサッシを解体現場から直送してくれた。これも近所の方が無償で提供してくれた。

廃墟の再生は、頼まれた仕事ではない。第1に自然に囲まれた美しい集落の中に産業廃棄物と廃墟があるのが許せなかった。それをどうすることもできないまま、無視するしかなくなっているのが耐えられなかった。そして、この地域に暮らすには、この場所を開拓する以外に選択肢がなかった。ぼくたち夫婦がやらなければ、この場所は未来永劫、廃棄物置き場になる。

世の中には、やるべきことが山積みになっている。けれども、お金になること優先するばかりで、大切なことがどんどん失われている。大きな主語で言うならば、日本の転落が始まっている。この国に暮らす全員が、その転落を後押ししている。いまこの国ある常識や当たり前のほとんどが狂っている。その対極に人間らしい豊かさがあるように思える。

波板トタンを提供してくれたYさんは会社を縮小して「正直に生きる」と数年前に決意して、自分と向き合うようになってから人生が楽しくて仕方がないと話してくれた。