いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

目標を設定して、どうしたら到達できるのか考えること

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ある日、ボルダリングをやってみたいと思った。お店のなかには入らないで、外から様子を眺めて、自分にできるかな、と考えて躊躇してた。

そのころ、音楽マネージメントの会社で働いていて、CDをリリースしたり、アーティストのマネージャーをやったり、フェスティバルの制作を仕事にしていた。今から10年も前の話だけど。

社長が俳優の浅野忠信さんと友人だったこともあり、ウチの会社で浅野さんの音楽方面のマネージメントをやることになり、ぼくが担当者となってツアーに同行させてもらったりした。

浅野さんは、普段はとてもふざけていて冗談を言ったりして、気さくな人だった。けれども、ステージに立ったり、撮影のカメラが回ると、一瞬で立ち振る舞いや表情が変わった。あるとき、ファッションの撮影現場に同行したとき、ほんの数枚の写真を撮っただけで仕事は完了して、そこにいた全員が驚いた。俳優浅野忠信がそこにいた。完璧な仕事っぷりだった。

そんな浅野さんに

「最近、ボルダリングやりたいと思ってるんですよ」と話したら

「え?何でやらないの?!」即答だった。まったく素直な返答で、逆に自分もなんでだろう、と思ってしまった。

だから、その日の夕方、仕事が終わってボルダリングジムに電話した。入会金が少し高めだったけど、家から近かったので問い合わせてみた。

 

電話に出た女性が入会金と初心者レッスンと月謝の案内をした。思ったよりお金が掛かるので、ちょっと躊躇した。すると女性は

「適当にやるんだったらウチじゃなくていいと思います。ほかにも安いところあるので、そちらでどうぞ。ウチは初心者レッスンで基礎を教えますので、多少お金は掛かりますが、ボルダリングをきちんと教えます」と言った。

そんなに言うならとそのジムでレッスンをうけた。そうしてボルダリングを始めた。

最初のレッスンは「今からABCのルートを教えますので、自分で練習してください。30分したらまた声を掛けます」と言われた。

やってみたら案外難しくて、ABまでしかできなかった。30分後に先生に「ABCをやってみてください」と言われ「ABをやってみせて、Cは時間がなくて、やれませんでした」と言うと

「わたしはABCをやりなさいって言いましたよね?時間がなくてできないではなく、どうしたらできるか考えないのですか?」

と厳しく言われハッとした。

あれはできるとか、できないとかやる前に判断していたことに気がついた。何もする前にやってもいないのにできないと諦めている自分がいた。

ボルダリングの先生は

ボルダリングは、まずオブザーベーションと言って、どうしたら目標に到達できるのか頭のなかでシミュレーションします。無駄な体力を使わないように。頭の中でイメージして、そのルートを登ってゴールするんです。あなたは、与えられた時間のなかで、どうしたらゴールできるか考えましたか?」

ぼくは、それまで目標に到達するルートをイメージしたことがなかった。ボルダリングは、目標に到達するやり方を教えてくれた。それから6年くらいボルダリングにハマって、外の岩にも登るようになって、ボルダリングジムでアルバイトさせてもらうようになった。できないことをどうすればできるようになるのか、シミュレーションして実力が足りなければ、トレーニングを重ね、ひとつひとつ目標をクリアする基礎が身についた。

 

いつか自分でボルダリングの壁を作りたいと思うようになって、紆余曲折、いまボルダリングの壁を作っている。ボルダリングは、競争というより自分との戦い。昨日の自分を超えて、今日より明日へと自分を成長させていく。個人競技だから、誰かと比べる必要もない。言葉通り、壁を乗り越えることの連続で、常に壁にぶち当たっている。

いまだから分かるけど、浅野さんは常に現場で、自分の壁を乗り越えているから、躊躇したり考えたりするよりも表現して結果を出してきたんだ。同じ時間を過ごしてもらったことに感謝しかない。浅野さんが当時やっていたハードコアパンクバンドの歌詞に名言がある。

 

「おまえがおまえを信じなくて誰がおまえを信じる」

おかげでぼくは自分が信じる道を歩いて、やりたいと思ったことは何でもやっている。だって、やらない理由なんてひとつもないよね?