いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

One of thesedays 82

朝起きると晴れていた。海に行くことにした。外に出ると、市役所から草刈りに来ているおじさんが
「サーフボードあったけどやってるの?」
と話しかけてきた。
「やってると言っても、つい最近始めたんです」
「わたしも30年位やったよ。まだサーフィンてスポーツがいまほど定着してなかったから苦労したけど。気をつけてね。サーフボードが吹っ飛んで、リードに引っ張られて頭に当たったりするから」

「ちょうど、足の甲にフィンが当たってケガしたんです」
「波に飲まれたら、サーフボードにつかまると怪我の確率が減るよ」

降ってきた天啓のような貴重なアドバイスを頂いて海に出た。海はうねって大きな波をつくっていた。海に入る。波に向かう。波に乗る。立とうとするけど立ない。何度も繰り返す。チフミは、砂浜で流木を拾っている。1時間ぐらいやって部活を終わりにした。”KITAIBARAKI BEACH CLUB”と命名して、ペットボトルの筏に乗ったり、サーフィンやったり、釣りをして海と遊んでいる。

帰り道、新しい浜を見に行った。新しく見る場所はすべてが新鮮。浜では3本の釣竿を海に垂らしているおじさんがいた。バケツを覗くとカニ。聞くとワタリガニだと教えてくれた。新しくみつけた浜は、工事をしていてテトラポットが並んでいる。海は自然で人間がテトラポットを並べて自然に対抗している。絶対の安全なんてないから、ほどほどに抵抗しつつ、自然のままの景観を残してほしいと思う。

浜を後にして、家の裏にある苗屋さんに寄ってトマトとキュウリの苗を買った。山のアトリエへ移動して、近くに借りた畑に植えた。畑を観察してみるとニンジンの種も芽を出している。小さすぎて周りの雑草に負けているので、雑草を抜いてニンジンが育ちやすい環境を確保した。畑には、ナスの苗が発泡スチロールに入れてあって「たぶん畑を貸してくれたミツコさんがくれたんだね」とチフミと話してナスも植えた。少しずつ畑に品目が増えてきた。

「大地を耕して食べ物を手に入れる」行為は、人類の歴史のなかでは、それをしなければ死んでしまう労働だったのだけれど、近現代では、それをしなくても生きていける層が増えて、やり方を知らない人間も増えている。ぼく自身がそうだ。大地を耕して食べ物を手に入れるという技術こそ、生きるための芸術で、この時代には新鮮なアートとして提案できると思う。どう何を表現して見せるのか。それ次第では。そんな思いも含めて土をイジりはじめた。


市役所から、ふるさと納税の相談があると連絡があって、市役所に行くことにした。北茨城市ふるさと納税の返礼品として、キツネの焼き物を出品している。品目を増やしたいから、絵画作品も出さないかと相談された。絵を売る窓口が増えるのは、願ったり叶ったりだ。

市役所で茨城空港のチラシをみつけた。台湾の台北も中国の上海も、片道1万円もしないで飛べるらしい。なるほど、この地から中国や台湾と交流することを閃いた。アジアの地方、むかしながらの暮らしを調査するのは、日本との共通点や、人類がどうやって生きてきたのか知るうえでも有意義な旅になる。きっと。

アトリエに戻って、二ツ島の波の絵を完成させた。サーフィンの体験が波の絵に反映されていた。見える波と、触れて体感する波は、まったく違う。「見る/聞く」は文章の基盤になるけれど、行動や経験には劣る。

夜は、今年のフジロックフェスティバルでBarをやる準備のために、スーパーで買ってきたクラフトビールを飲んでみた。「水曜日のネコ」と「よれよれビール」どちらも260円ほどで「水曜日のネコオレンジピールが入っていて苦味がない。「よれよれ」はフルーティな香りプラス苦味もある。缶を眺めていると水曜日のネコ発泡酒と書いてある。

調べてみると、麦芽50%以下だったり、それ以外のものを混ぜていると発泡酒になるそうだ。水曜日のネコは、麦芽は90%以上でビールなのだけれど、オレンジピールが混ざっているので発泡酒扱いになる。けれども麦芽が90%以上なので、値段はビール扱い。とてもややこしい。ちなみに海外では、水曜日のネコと同様の飲み物はビールとして販売されている。

世の中はどうでもいいことに、いくつもの線を引いて分類して状況を複雑にする。そもそもタバコなんかも、家でつくって販売していた。それもいつの間にか日本ではやらなくなった。やらなくなったというか規制された。ビールひとつににしてもこう複雑なのだから、世の中の多くは、こんな状態が増えていくんだろう。

もっとバカでいいと思う。愚直で単純になりたい。ルールや社会が引く線に気がつかないほどバカのままでいい。
ビーチボーイズのアルバム「surf's up」を聴いて寝た。