いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

One of thesedays 78

月曜日。
昨日の夜、アルバイトの準備ができていなかったので、朝起きて、アトリエに寄って大工道具を車に積んで、常陸多賀へ向かった。8時30分に駅待ち合わせだったので高速で行くことにした。地方とはいえ、朝は道が混む。高速を使ったおかげで8時35分に着いた。

アルバイトに誘ってくれた音楽家のシンセンくんと合流して、現場に向かう。今日の仕事は、美容室のタイル貼り。美容室の入り口に施工してあるウッドデッキを撤去して、下に隠れているタイルを見えるようにして、いくつか欠けているタイルを交換するのが今回のミッション。

シンセンくんは、常陸太田の古民家に住んでいて、かつて東京でDJをしていた。たくさん共通の知り合いがいて、いままで会ったことがないのが不思議なくらい、親近感を覚える友達。

クライアントは、ROOSTという名前の美容室のオーナー鈴木さんで30代半ば。シンセンくんが、ぼくのことを話していてくれたので、作品に興味を持ってくれていた。会うとすぐに美容室に絵を飾りたいと相談してくれ、ROOSTの由来を聞くと、鳥の止まり木だと説明してくれた。すぐにピンときた。アメリカで描いた絵のひとつは、枝に止まる鳥だった。その絵の話をすると見たいと言ってくれた。

今日の仕事は、ウッドデッキの撤去からスタートして、ホームセンターにタイルを買いにいくこと。似たような色のタイルを探した。あったけれど切らないとハマらない。ホームセンターでカットのサービスを相談すると、値段の割には、仕上がりが悪いのでおススメできないと言われる。代わりに親切な店員さんがタイルのカットの仕方を教えてくれた。タイルをカットする刃をグラインダーに取り付ければ、簡単にできるらしいので、やってみることにした。

美容室に戻る途中、昭和から時間が止まったラーメン屋をみつけて入ってみることにした。70歳くらいの男の人がひとりお店にいた。お昼なのに誰もお客さんがいない。ぼくはチャーシューメンを頼んだ。おじいさんは、ラーメンをつくりながら話しはじめた。

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「こんなお店は流行らないよ、もうとっくに競争に負けているから、ただ続けているだけだ」
おじいさんは話すたびに
「ちょっと話しは後にしてくれ、ラーメンをつくりたいんだ」と自分から話し始めたくせにそんなことを言う。
それでも
「いまは大変な時代になった。君たちは可哀想だよ。何をやっても儲からない。役人ばかりが儲かる時代さ。少しずつ、奴らは準備してたんだ」と話しを続ける。
「悪いが話しは後だ。ラーメンづくりに専念させてくれ」
と言いながら
「わたしがお店を続けられたのは健康だからだよ。健康だけが大事さ。もう競争にはとっくに負けているから」
と結局、話しは止まることなくラーメンが出てきた。ラーメンと一緒におじいさんはカウンターから出てきて話し続けた

「もう土地だって価値がないから、息子もいらないって言うんだ。ここにラーメンを食べに来る人もいないからな、もういつ店を畳もうかと考えているよ。大変な時代だよ。わたしが言えるのは、健康が一番だということさ」

結局、ラーメンはそれほど美味しくなかったので、おじいさんの話にも説得力がなかった。

午後、美容室に戻って、タイルを磨いて、明日の準備をして夕方に仕事を終えた。帰りは高速を使わずに帰って、アトリエに寄って、明日の道具を用意して、美容室のオーナーに見せる鳥の絵を車に積んだら8時を過ぎていた。メールをチェックすると、県北クリエイティブというサイトの編集者からメールが来ていた。

「石渡さんに声をかけようかなと思っていましたが、なかなか編集しがいのある原稿ですから、もっと事実に即して記事を書いて頂けるならまたお願いしたいと思います。ぜひ企画を送ってください」
サイトが今期も続くならまた記事を書きたいとメッセージした返事だった。