いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

ぼくたちの失敗。絵を売ること。

f:id:norioishiwata:20170706155732j:plainオークションイベントに東京半蔵門で参加した。80x80cmとA3サイズの2点を1週間展示して、欲しい人が値段をつけることができる。ぼくたち夫婦はゼロ円スタートにした。そうすれば、欲しい人が手を出せると考えた。

イベントの最終日に2日間に渡ってオークションは開催された。ぼくたち檻之汰鷲は、初日のトップバッターだった。オークションイベント自体が初めての試みで、すべてがチャレンジだった。残念なことに、ぼくたちの作品が競売されるとき、お客さんがほとんどいなかった。そんな中で始まったオークション。
オークションの司会者が
「この作品を欲しい方!」と声をあげると「7500円!」競う相手もいないので、そのまま落札された。もうひとつは、facebook経由で一万円の値段をつけてくれた人がいたので一万円スタートとなった。
「この作品を欲しい方!」と声をあげると「15000円!」
そのまま落札された。

作品はいつも5万円で売っていたので、とてもショックだった。けれども、欲しい人が安い値段でぼくらの作品を手に入れることができたのは、ラッキーなこと。複雑な気持ちになった。

f:id:norioishiwata:20170706155825j:plainオークションイベントには15組のアーティストが参加してして、最も高い値段は、ハヤシイサオのペインティング30万円と50万円。
ハヤシイサオはこう説明した。
「ぼくは命掛けで絵を描いています。この線を描けるようになるまで30年以上かかっています。岡本太郎ピカソを越えようとしました。ぼくはその岡本太郎を越えたいんです。そういう画家がいてもいい。やりたいことを全力でやる。そういうエネルギーをこの作品に込めています。みなさんが、やりたい何か、そこに踏み込めることを願っています。」
そんなメッセージだった。残念ながら入札はなかった。けれどもハヤシイサオは、この値段で買うお客さんを持っていて、この日に来れなかった。それだけだった。

ハヤシイサオは「アーティストは人生を賭けて作品をつくっているのだから、それに価値をつけて、その価値に見合う作品をつくらなければいけない。10年前に作品を売ったお客さんは、今でも毎日作品を見て楽しんでいると連絡をくれた。君の作品はゼロがひとつ足りないよ。それでいいの?」と言った。

「ぼくも命掛けでやっているよ。今回はゼロ円でやってみたかったんだ。結果には、満足していないけど。今回このイベントにハマらなかったよ。」と言うとハヤシイサオは
「本人がいいなら、何も言わないけど。俺もこのイベントにはハマらなかったな。」
ゼロ円と50万円の作家が言葉を交わし、なぜだか共感した。

ハヤシイサオは半蔵門のオークションイベントと同時に根津で個展を開催していた。気になったので足を運んだ。路地裏の小さなバーで開催されていた。そこに小さな作品が展示してあった。ハヤシイサオと話して、その生き方、考え方が好きになった。海を愛するペインティングが気持ちよかった。
いくつか気になった作品の値段を聞いてみると、端材に描いたペインティングは買えない値段ではなかった。

チフミが
「これ買う」
と言った。
ハヤシイサオは
「え?ほんとに!?」
と驚いた。

ぼくたちは、作家だけれど、ほかの人の作品を買ったことがなかった。ハヤシイサオは作家に作品を買って貰えるなんて嬉しいと感動を言葉にしてくれた。ぼくたちも何故か、オークションでの失敗が、清算された清々しい気持ちになった。

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絵を売ること。
絵を買うこと。

アートと呼ばれる複雑で理解ができないような現象も、経済活動のそとにある訳でもないし、貨幣という一定の価値基準のなかで、評価されるからこそ、その価値を伝えることができる。10万円の絵には、その理由と価値がある。作家はそれを証明しなければならない。絵との巡り合わせは一期一会の出会いでもあるし、運命や経験、人生の様々な出来事のような、心が動く瞬間でもある。

ゼロ円だったぼくら夫婦の作品は2000円でも落札できたのに7500円の値段をつけてくれたことに、10500円ではなく、15000円入札してくれたことに愛があると気がついた。ありがとう。ありがとう。涙が出た。
村上隆が本に書いているように「芸術家として起業する」ことがアートで生きていくこと。いよいよ次のステージが見えてきた。

ヨーロッパとアフリカを旅した「生きるための芸術」をぼくは今年出版して、その続編「生活芸術」を書いている。一昨日から書くことを再開した。人生の些細な出来事を記録すれば、それは物語になる。すべての人生がたった一度しなかない夢のような軌跡なのだから。


夫婦芸術家
檻之汰鷲(おりのたわし)

http://orinotawashi.com/