いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

植物を愛せば幸せHAPPYになる【恵比寿の小屋-後編-】

f:id:norioishiwata:20170503223843j:plain小屋を建てる夢を見たイベントのプロデューサーでもある高橋ケンジ氏からのオーダーは「都市と自然」だった。ぼくは空き家の木材が森からやってきたことを知って自然に興味を持つようになり、その環境を追求するうちに人が暮らさなくなった里山と呼ばれる場所に辿り着いていた。それが、この冬を越した岐阜県中津川市だった。
暮らしてみて思うのは、都会と田舎のどっちがよいか?という比較をしても意味がないこと。どっちをディスっても誰も幸せにならないし、両方によいところがある。都市には、人間と商品とサービス、貨幣の流通がある。田舎は何もないと言われるけど、逆を返せば自然がたくさんある。田舎はインターネットのおかげで、商品やサービスは充分流通していて意外と便利だったりする。だけど、都市には圧倒的に自然が足りない。庭も森もなければ、火も熾せない。

f:id:norioishiwata:20170503230433j:plainケンジ氏と話すうちに都市生活に自然を取り入れることができれば、それこそハッピーで豊かな生活になるのでは!と閃いた。それが「都市生活に自然をインストールする」というアイディアだ。
ぼくの周りには、既にそれを実践している人物が2人いた。ひとりは、WeekendFarmersというチームで、渋谷のビルの屋上で野菜を育てる小倉崇パイセンこと、オグラン。「渋谷の農家」の著者でもある。野菜はどこでもスペースがあれば育てられる。土と水さえあれば。家を自分で建てられるうえに直せたり、食べ物まで自給できれば、かなり暮らしが楽になる。都市生活の出費の多くは、家賃と食費なのだから。オグランに電話で、恵比寿ガーデンプレイスで畑をやれないか相談すると即答でOKしてくれた。これが3月の頭だから、GWの開催まで2ヶ月を切っていた。WeekendFarmersであり神奈川県の相模原でも畑を営む油井くんとオグランは、短期間で育つ野菜を選んで、土を用意して、恵比寿ガーデンプレイスが所有するプランターに畑をつくることになった。種蒔きは、恵比寿の保育園に通う児童たちがやって、プランターを害獣から守るために流木で、天蓋ベッドのようなネットをつけた。これはWeekendFarmersの仲間でもある、流木アーティストZerosaijiことハルくんが仕上げた。こうやって、恵比寿ガーデンプレイスに畑ができた。

f:id:norioishiwata:20170503224105j:plainもうひとりは、原宿にある作品を飾ってくれている美容室Calmで出会ったビリ氏。そのとき、ビリ氏から、エンジョイボタニカルライフ推進室という取り組みの話し聞いて、はじめて植物を身近に感じた。ビリ氏は、生活のなかに植物を取り入れる暮らしを推進していた。
そのときのことを覚えていて、自分が建てた小屋に植物を展示してもらい、訪れる人たちが、植物に触れるきっかけになったらいいと考えた。それこそ、生活に自然をインストールすることになる。
ビリ氏は「植物を生活に取り入れるのは、植物とのコミュニケーションだから、それは対話でもあって、恋人や夫婦のような関係だ。」と教えてくれた。植物は水を絶やしたら枯れてしまう。植物によって必要な日照の量も違う。ものを言わない植物と対話するのは、人間とコミュニケーションするよりずっと難しい。でも、そんな植物の気持ちを理解できるようになれば、人間ともっと上手くコミュニケーションできるかもしれない。パソコンやモバイルガジェットよりも植物の方が人間に近いのだから。

f:id:norioishiwata:20170503224207j:plain小屋があって、畑があって、植物があって。ぼくが理想とする生活の芸術たちが集まってきた。もうひとつ。ぼくの生活には音楽が欠かせない。音楽を聞くには、ライブハウスやクラブに行ったりお店に買いにいかなければ手に入らない。音楽といってもたくさんのジャンルがあるけれど、ぼくは、人間中心ではなく環境に対応した、海の山の火の風の音楽があったら面白いと考えていた。もちろん、ブライアン・イーノが提唱したアンビエントミュージックもある。けれど、例えば、恵比寿ガーデンプレイスに響かせる音楽、つまり人間のためではなく、場所のために鳴る音。そんな表現ができないのだろうか。
このアイディアをキャンプとアンビエントミュージックを満喫できるフェスティバル「Camp Off-Tone」を主催する松坂大佑氏に話してみた。
氏は「そうなんだよ。多くの音楽は人間の時間軸でつくられている。けれど、自然界には、もっと多様なリズムがある。例えば、鳥のタイミングや風のリズムや。都市では、もっと多くの音が、それぞれのタイミングで発せられてる。偶然に鳴っている音を周波数で分類して音階を与えれば環境が音を奏でてくれる。こんなことをやりたいと考えいた。」と話してくれた。
やりたいと思うことを失敗とか成功とかではなく、それに取り組む機会が必要だ。だから、この飛びきり新鮮なアイディアは恵比寿ガーデンプレイスで演奏されることになった。これは音楽からの自然に対するアプローチ。

f:id:norioishiwata:20170503225354j:plainこうやって集まった仲間たちが、つくってきた恵比寿ガーデンプレイスのイベント空間。このギャラリーや美術館ではできない都市生活空間にこそ展開できる巨大なアート展をぜひ、体験してみてほしい。

このどうなるか分からない企画を全面的に許容してくれる、ガーデンプレイス側の担当者、安田さんと三谷さんのサポートに感謝です。企業のなかには、世のため人のためになることを惜しまない人もいることを知った。
イベントをプロデュースする恵比寿新聞は、恵比寿に暮らす人々のためのローカルメディアで、恵比寿は住みたい街ナンバーワンではあるけれども、住みにくい街でもある、という。暮らす人の目線でその環境を変えているのが、今回のすべてのきっかけ高橋ケンジ氏。ガーデンプレイスも、企業として地域の顔の見える人に参加してもらったり楽しんでもらいたいと考えている。

5月5日、6日、7日の期間中は、ビリ氏によるワークショップ、さまざまなトークやイベントがあります。6日には、松坂大佑のサウンドアートが体験できます。最終日には、育てている苗のお裾分けもありますので、みなさんの生活に自然をインストールしてみてください。食べ物を自分でつくる経験は、生きることそのものだ。植物と対話することは命に触れること。

f:id:norioishiwata:20170504083227j:plain人間は都市に生きているのではなく、大自然=地球という環境のうえに生きていることを忘れてはいけない。人間ひとりひとりができることは小さいから、小さな植物を愛でたり、土を触り、種を蒔き、少しの野菜をつくるようになれば、また違った生活の豊かさが見えてくる。ぼく自身が、そういう眼差しを今回のイベントで手に入れたので、みなさんの生活に少しでも自然との接点をつくれれば、とこれを書きました。

No plant No Life,

No Seed No Life,

No Nature No Life.

最後まで読んでくれ、ありがとうございます。