いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

空き家に暮らす-三重県志摩市阿児安乗編

愛知県津島市から三重県志摩市阿児安乗へと向かった。安乗の空き家に一カ月滞在する。

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最近は、移動に高速道路を使わなくなった。理由は単純。出費を抑えるため。100kmマラソンする超人小山さんが東京から大阪までは高速道路を使わない、下道でも数時間しか変わらないから、と教えてくれた。面白い考え方だ。この数時間のために、いや、都市では、数分のことで神経をすり減らすのに。考え方ひとつで世界が変わる。

結局、6時間かかって安乗に着いた。ところが携帯電話の電波が入らないうえに、空き家を案内してくれるノリくんとも連絡が取れない。まあ、今日は寝れればいいや、とチフミと話して、電波の入る場所と安乗のあちこちを往き来して過ごした。万が一のためにキャンプする場所も探してみた。

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夜7時に連絡が取れ、あと1時間で戻るとのことだった。電話で空き家の場所を教えてくれたので、見にいくことにした。
6月に案内されているものの記憶は曖昧で、さらに自分は方向音痴。チフミの記憶を頼りに探してみたが、その空き家を発見できなかった。近くの公衆電話から連絡するとあと30分というので、荷物を整理して待つことに。

滞在する空き家は、高台にあって車では行けないので、コンロやマット、朝食分の食料、水、キャンプテーブルを運ぶことにした。すぐにノリくんが現れ、今夜からの我が家へと案内してくれた。

家は雨戸が閉まって、開けると意外にも綺麗な状態だった。電気、水道も開通してあり、風呂もトイレもクーラーもある。トイレは水洗、洋式、ウオシュレット装備の最高仕様。間取りはキッチン4畳半。10畳の部屋ひとつの平屋。これまで住んできた空き家のなかでも最優良物件。考えてみれば、トイレと風呂を完備さえすれば、逆に他の箇所はいかようにでも修理できる。すっかりこの家が好きになった。

しばらくの歓談の後、ノリくんがカニを獲りに行こうと誘ってくれた。
車で5分ほどの船着場の海中を懐中電灯で照らしてカニを探す。目が光るから分かるらしい。夜の船着場は、いろんな音がした。波、鳥、船の軋む音、風。景色は青紫で黒に飲み込まれていく。美しく静謐な空間。
「いた!」
ノリくんが網を水中に入れると壁と網の間にカニがいた。カニは生きているから素早かった。これが「生きがいい」ってことだよ。ノリくんが教えてくれた。そんなカニを3匹捕獲。

小さなバケツに入れられたカニは、争いを始めて、小さいカニが中位のカニの手を引きちぎり、大きなカニが睨みを利かせていた。海から唐突にバケツに放り込まれたカニは気が狂ったのかもしれない。カニじゃなくても自然から引き離されたら狂うのかもしれない。

「カニは早く食べてあげた方がいいね。」とノリくんが言った。家に帰って、塩とウィスキーで煮たカニを食べて寝た。安乗滞在記。第一日目。

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