いきるための芸術の記録

荒地と廃墟の楽園より

ローカルから始まる生活革命

多くの人は「移住とは地方で暮らすこと」と捉えているが、ぼくは、もっと別の角度から、移住から始まる生活革命の話をしてみたい。

移住とは田舎で暮らすことではない。地方とは都市の反対語ではなく、場所を指す言葉で、英語にするとローカルで地元という意味もある。

住所の記入欄には誰もが住んでいる場所を書く。ぼくの場合は東京都板橋区徳丸。毎日の暮らしはここにある。しかし、つい最近まで、自分のローカルに注目したことがなかった。

自分がいる場所を中心にすると、そこは地元(=ローカル)になる。それは自分だけが記入できる白地図だ。この地図は、家のある場所から仕事がある会社も含み、自分が持つすべてのネットワーク、つまり食べるための食材を買う先から、どこで洋服を買うのか、電気や水道などの生活のインフラ、遊ぶ友達、仕事の仲間、生きるのに必要なすべてを生活圏として描き出すことができる。

毎日の暮らしのなかで価値を発見して地図に書き込む。インターネットで検索してみつけるのではなく、出会った人や出来事を記録し、ネットワークをつくり仲間を増やし、自分だけの生活圏を拡張させ育てていく。
ぼくは板橋区徳丸に380円で地上最強に美味しい醤油ラーメンと、パンを直接販売してくれるパン工場と、おなかいっぱい食べても3000円にもならない激美味い焼肉屋を発見した。


本来、仕事とは、誰かの必要を満たすことだった。その対価としてお金が発生する。また自分の必要を満たしてくれた誰かに支払う。そうやって経済は血液のように循環する。自らが稼いだお金に関しては、本来どんな権力にも支配されない絶対的なチカラを持つ。得たお金は好き勝手自由に使うことができる。自分が描いた生活圏のなかにどれだけ血液(=お金)を循環させているだろうか。


いま現在、日本のみならず世界は経済に翻弄され戦争や人殺しを厭わない時代に突入している(ずっとそうだったのかもしれないけど)。「経済」という全体のなかにぼくらが日々消費している僅かなお金も含まれている。だからこそ、お金に支配されるのではなく、一人一人の人間がそれぞれの生活圏のなかでお金の支配者になれば、そこから生活革命が始まる。この革命は、少しも夢のような話しだとは思っていない。


誰かと食事に行くならインターネットの情報を頼るのではなく、あなたの友達のお店やあなたが暮らす街のお店で食べればいい。おやつを買いたいなら、コンビニやスーパーマーケットではなく、街の小さなパン屋やお団子屋で買えばいい。野菜を買うなら、農家から直接仕入れたり、せめて近所の八百屋で買うべきだ、大型マーケットではなく。洋服もファストファッションの安いものばかりではなく、友達が気合い入れているファッションブランドの品をひとつぐらいは購入してみる。大型のコンサートではなく友達が奏でる歌や音に耳を傾け対価を支払おう。お金のために我慢して仕事をしているなら、そのお金で自分が望む小さな新しいビジネスを始めたり、誰かの活動を支援するためにお金を使ってみよう。

いまとは違う暮らしを望む気持ちが「移住」というキーワードに注目を集めているのなら、こう提案したい。移住とは、田舎に引っ越すことではなく、自分の生活圏に価値をみつけ、つくりあげることだ。自分のローカルを経済という血で循環させ、育てるリアルなゲームだ。生活の仔細なことを変えるだけで、ぼくらはほんとうの意味での人間らしさを手に入れ、いまとは違う豊かさを発見することができるはずだ。


もし、生活圏づくりを始めいい手応えがあったら、友達や地域コミュニティーに伝えて欲しい。「こうやったらすごくよくなったよ。」
ぼくは日本という国に生まれ、東京という都市の板橋区にいまは住んでいる。でも国や自治体は人ではない。口も手も足もないから何も行動しない。つまり、時代を変えるのは、役所でも政治家でもない、ぼくらひとりひとりの人間だ。


この世界の中心はひとりひとりの人間にある。ピラミッドに喩えるなら、頂点はひとりの人間だ。その足元に暮らしているコミュニティーがあり、さらに下に地域社会があり、さらに下に土台となる国家がある。自分を頂点とした社会が生活圏であり、ひとりひとりがその地図を描くことができる。

生活圏をつくる仲間が増えれば未来は変わる。
人生をつくるのは他でもない自分自身だから。

 

夫婦で作品をつくる
コラージュ・アーティスト
檻之汰鷲(おりのたわし)
http://orinotawashi.com/

生きる芸術のための生活者
石渡のりお
norioishiwata@gmail.com