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苦手や下手に向き合うこと、それは物事に取り組む、もっとも基本的な姿勢を再発見すること

これまで、なにを考え生きてきたのか。反省とまでは言わないが、想い起こすことが多々ある。

いまは、作品をつくって、生きていけるようなライフスタイルをつくろうとしている。しかし、それは未来に完成するものではなく、常なる日々につくられていくものだ。だとすれば、いまどうやって制作を最優先に生きていくことができるか。

「作品をつくる」というお題は、あまりに様々な意味を持ってしまっている。例えば今取り組んでいる空き家再生プロジェクトも作品だと思っている。場所をつくること、空間をつくることも創作のひとつだ。この時代が要求することを表現し伝えること。逆に言えば、ぼくの場合は、つくり、伝えるものであれば、すべてが作品になる。

去年、旅をしながら、なにをどう表現すれば、そこに暮らす人たちに届くのか、考えながら取り組んできた。エジプトでは社会彫刻というコンセプトに至った。これは、ヨーゼフボイスが唱えたものでもあるが、彼がなにをしたかぼくは具体的に知らない。自分の体験から湧いたアイディアを育てれば、それは唯一無二の結果を生み出すから、立ち止まって考える必要はない。やってしまえばいい。

社会彫刻とは、社会を材料に行動してカタチを変えることだ。だから、なんだって社会彫刻になる。当たり前のことでも作品として提示することで、アートの敷居を下げて日常に近づけて、誰もが表現者なんだということを伝えたい。つまり、日々日常のなかで選択するひとつひとつが、人生を、この時代の社会をつくっているんだ、ということを。これはメッセージだ。

先日、つくっている本について友達から、テキストと作品が完全にひとつの本に収まったら、読者が考えたり感じたりする余白がなくなっちゃんうんじゃないか、と指摘された。なるほど、参考になる客観的な意見だ。ひとつには素直にその方向性に編集されたバージョンもつくってみよう。

現在つくっている本は、確かに余すことなく、自分の思考・行動・創作すべてを網羅している。しかし、どんなに言葉を費やしても、どんなに創作しても、人間が生きているという不思議さ、この社会の不条理さには到底及ばない。むしろ、そんな風に伝わる本に仕上がったらいいのかもしれない。

朝の清掃のアルバイトを始めて、生活はリズムを得た。修業だ。いま読んでいる「利休に帰れ」立花大亀の本に、修業とは、自分の過去の業を省みて、それを修めようと取り組むことだ、と書いてあった。この本は、禅宗のお坊さんの立場から茶の心を問う本で、茶の湯への興味を満たしてくれる。

昨日も朝5時に起きて、バイトにいった。ビルの守衛さんが今日は人が少ないから、と言う。なんのことか、考えながら歩いていると確かにビルには誰もいなかった。なんと休日だった。ぽっかり空いた時間にボルダリングジムにいくことにした。ボルダリングジムへの交通費を賄うためにこの仕事を始めたようなものだから、それは見事な収まり方をした。ジムのオーナーは24時間好きなタイミングで使っていいと言ってくれているので、朝6:30からでもトレーニングができる最高の環境になっている。

ボルダリングとアート活動は、関係ないようでも、多いに関係ある。スポーツはある地点を目指して積み重ねていく。どうやったら、到達できるのか、あらゆる方法を試行錯誤する。今日もどうしてもできない課題の解決策が閃いた。ボルダリングは手で岩を掴むのでそこに意識が囚われるが、脚も重要だと気がつかされた。

「どうやったら、それができるのか」こういう思考と試行の積み重ねをぼくはボルダリングで学んでいる。
人は得意なことは喜んでやるが、苦手なことは避ける。子どもの頃は「やりなさい」とやらされるが、大人になるといろんな理由をつけてやらなくなる。しかし、苦手なことに向き合ってこそ、みえることがある。

千利休は大男で、故に小さな茶室をつくったという。小さな部屋にこそ大きな道具を使い、大きな部屋だからこそ、小さな道具を使う。それが意図するところは「極端」だ。極端という発想、それは相反するものを捉えて取り組んでみること。してみると、それはもどかしく、どうにも上手くいかない。しかし、その拙なくもどかしい状態をを生活のリズムに取り入れると、シンプルかつスローになる。苦手だから、器用にテンポよくいかない。でも、その速度だから見えること気が付くことがある。前提として、その苦手なことを愛せるかどうかは重要なポイントだ。苦手や下手に向き合うこと、それは物事に取り組む、もっとも基本的な姿勢を再発見することになる。一からのスタート。もちろん、茶道の思考法に倣う必要はないが、これもひとつの遊び方の提案。

こうしてぼくは、いま現在、創作を最優先にして生活環境をつくっている。40歳でアルバイト、収入は10万円程度。このスタイルを許してくれるだけでなく、一緒に楽しんで生活してくれる嫁に、なにより感謝している。


夫婦で作品をつくる
コラージュ・アーティスト
檻之汰鷲(おりのたわし)
http://orinotawashi.com/

生きる芸術のための生活者
石渡のりお
norioishiwata@gmail.com